祟り
そして5年と言う月日は、瞬く間に過ぎ去って行ったのでした......
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『御影村の祟り』
ここ東京から遥か遠く離れた山奥で、5年前に起きた忌々しき大火災の事を、人々は今もそんな風に呼んでいた。
それは長閑で美しく、都会に住む人であれば誰もが憧れるような静かで平和な村で起きた大惨事。
当時、週刊誌が面白おかしくそんな表現をしたものだから、悪意有る代名詞の方が世間に周知される結果となってしまった。
SNSが情報ツールの主軸と化した今日この頃。興味をそそる内容ともなれば瞬く間に話が誇張され、夜空に浮かぶ三尺玉の如く巨大なループが人々の目、耳に晒されることとなる。
「御影村の大火災って知ってる?」
「ええ......それって『御影村の祟り』のことでしょう?」
まぁ、こんな感じで。
どうやら......
5回目の春を迎えた今日に至っても、そんな都市伝説談議が女子高生達の間で繰り広げられてたらしい。
噂話が三度の飯より好きな彼女らに取って、都市伝説は正に高級スイーツみたいなもの。話が始まれば必然と舌の動きが活発になる。
では一体、彼女らの繰り広げる都市伝説とはどんなものだったのか?
少しばかり興味の有る所なので、ここは少し耳を傾けてみることにしよう。
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「あたしSNSで見たんだけどさ、神社に放火した女の子が名前変えて今東京に隠れ住んでるらしいってよ!」
「ええっ? まじぃ~?! もしかして、この近所に住んでたりして?」
「全然あるある! 噂に寄ると夜な夜な松明持って火を放つお金持ちの家を探してるんだって。そんでもって火を放つ前にボソリと、すみません......って謝るそうよ!」
「やだぁ、もうそんなこと言わないでよ! 夜寝れなくなっちゃうじゃん!」
「あんたの家は貧乏だから大丈夫よ」
「そ、そっか。安心したわ」
ちなみにそんな3人は、どこをどう見たって今時の女子高生。揃って茶髪、ロン毛に、きれいな化粧で固めてる。
ガードレールに長時間腰掛けてるから尻が痛くならないか、見てる方が心配になってしまう。
そんな心配を他所に、女子高生達のマシンガントークは、いよいよ佳境へと誘われていったのでした。
「でもさぁ、最近この辺りでやたらと火事が多いじゃん」
「そうそう! あたしもちょっと気になってたんだ。昨日も夜消防車のサイレンが鳴ってたし」
「もしかして、あたし達の直ぐ近くに放火少女が居るとか?!」
「も、もう止めようって。そんな話してて彼女が引き寄せられて来たらどうすんのよ。突如背後からすみません......ってね!」
女子高生達の都市伝説談議がいよいよスイーツタワーの頂上に到達しようとしていた正にその時のこと。
突如背後から、
「すみません......」
呟くような女性の声が。
「えっ、あっ、な、なに?!」
「まっ、まさか?!」
「ほ、放火少女?!」
怖さ半分、興味半分、顔面蒼白で女子高生達が振り返ってみると、そこには犬を連れた20才過ぎの女性がただ1人。おぼろ気な表情を浮かべて何かを訴えようとしてる。
すると、
「道を......開けて......下さい」
どうやら......狭い歩道で屯してたから通れなかったらしい。
「え、あ、あ......す、すみません」
陽炎のように突如背後に現れたそんな女性は、ヒタヒタヒタ......まるで水辺を歩いてるような歩調で、女子高生達の前を通り過ぎて行くのでした。
その顔は正に能面。つまり全くの無表情ってこと。更にショートヘアーで有りながらも、顔の右半分が前髪で完全に隠れてた。そしてなぜか、中学生が着るような上下ジャージ姿。
一般女子たるその娘達が不気味に思うのも決して不思議な話じゃ無かった。
「ちょっと、今の人なに? なんか、死人みたいだったじゃん!」
「ハッ、ハッ、ハッ......マジで噂の放火少女だったりして?!」
「や、止めてよ! もしそうだったら今頃あたし達生きて無いわ!」