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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第3章 向日葵の秋祭り
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深海魚

 それは正に、地球が爆発したのかって思う程の大爆音、そして大爆風だった。


 衝撃で粉々になった屋根やら木やらと共に、あたしと悠真くんの身体も大きく吹き飛ばされたことは、今でもはっきり覚えてる。


 そんな大爆発の中心に居た賢也の身体と魂は、きっとあたし達なんかより遥か遠く、そして遥か高く、天にまで吹き飛ばされてたんじゃ無いのかな。



『お姉ちゃん!』


 最後にそう叫んだ賢也の顔は、きっと生涯あたしの記憶の奥底に突き刺さり続けるんだろう。


 いつもあたしを頼り、それでいつもあたしを愛し続けてくれた彼の思いが、きっとその一言に集約されてたに違い無い。


 そんな彼に対して、あたしは何もすることが出来なかった。自分の命に替えても守らなきゃならなかったのに、今あなたの命は失われて、あたしは生を長らえてる。



 これって、どう言うことなの?! 


 何で神様はあたし達にこんな酷い仕打ちをするの?! 


 賢也が一体何悪いことしたって言うのよ?!


 どんなに神様を恨んだって、どんなに自分を卑下したって、どんなに後悔したところで、秋祭りが始まるその時間に戻ることは出来ない。



 結局のところ今思い返せば、あたしは自分のことしか考えて無かった。


 彼氏が出来て嬉しくて、舞い上がっちゃって......そんな盲目になった自分が情けなくて涙が出て来る。


 あたしって、何でこんなにも愚かで賎しい人間なんだろう。いっそのこと生まれて来なければ良かったのに......


 賢也......ごめん。


 本当に......ごめんね。



 気付けばあたしは薄れゆく意識の中で、数多にこぼれ落ちる涙で出来た地獄と言う名の大海へ、その身を落として行った。



 人は死ぬと......


 天上から光が差して来て

 天国へと昇って行くと言う。


 でも今あたしは

 賢也が天に昇って行く姿は

 見えなかった。



 ならばどこへ?

 まさか、あたしと同じ地獄?


 いや、そんな訳無い。


 あんなに優しくて

 あんなに思いやりが有って

 あんなに姉思いの賢也に限って

 そんな所へ行く筈が無い。


 なら一体どこへ行ったの?


 また直ぐに

 あなたの元気な姿を

 見せてくれるよね?


 今の爆発で死んだなんて

 言わないよね?


 あなたはどこ?

 一体どこに隠れちゃったの?



 あたしは賢也の姿を求めて

 深い海の中へと潜って行った。


 光りがどんなに消えていっても

 深海魚となったあたしは

 その身体を止めること無く

 更に深く深くへと潜って行った。


 

 賢也、

 隠れて無いで出て来て!



 暗黒の世界の中を

 彷徨い続けるあたし......


 やがて疲れきったあたしは

 深い深い海底で貝となり

 その固い殻を閉じることにした。


 それは、身体は生きてても

 心だけが深い冬眠に入ってしまった

 瞬間だったのかも知れない。



 あたしは自らの意思で

 感情を失うことにした。


 あたしは自らの意思で

 記憶を消すことにした。


 だってもう

 そうするしか無かった。


 そんな現実......

 受け入れられないから。



 あたし......

 向日葵の花みたいに

 強くなれなかった。


 こんな弱いあたしで

 ごめんね、お母さん。


 こんな頼りないお姉ちゃんで

 ごめんね、賢也。


 人間をやめて

 貝になったあたしを許して。


 さようなら

 大好きなみんな......


         『天国と地獄』前半戦 完


       そしてそのまま後半戦へと続く



★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 これまで『天国と地獄』をお読み頂き、本当にありがとうございます。深く感謝申し上げます。


 見ての通り、あたしこと向日葵は、この秋祭りを境にして、天国から地獄へと突き落とされる結果に......


 あの後、あたしの無実は証明されたけど、中にはあたしが故意に松明を神社に投げ入れたと信じて疑わない人も居た。


 大勢の犠牲者が出ちゃったから、恨まれるのも仕方の無いことだと思ってる。全くの無関係じゃ無い訳だけだし。



 とにかく苦しくて、辛くて......


 耐え切れなくなっちゃったあたしは、それまでの全ての記憶と、喜怒哀楽と言う全ての感情を、自らの意思で心の奥底に封印してしまったの。


 そうなっちゃうともう、ただの植物だよね。とにかく無反応、無感情、そんな寂しい人生がこの後、あたしに待ち受けてた。


 でもある時を境に、これじゃダメ! 人は誰でも幸せになる権利が有るって、思えるようになったの。



 それはそんな地獄の秋祭りから5年が経った春のこと。


 あたしは色々な人々と出逢い、そして触れ合い、少しづつ元の花咲向日葵を取り戻して行くことに。


 ここからがあたしの本当の物語。一つ一つ壁を乗り越えて成長して行くあたしの生き様を応援してくれたなら嬉しいな。


 そんな奇想天外な後半戦もお読み頂けたなら幸せです。宜しくね。


                 花咲向日葵


 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 

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