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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第3章 向日葵の秋祭り
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まな板の鯉

 でも何より一番怖かったのは、なぜか口を閉ざしてしまった佳奈子の存在に他ならなかった。


 これだけの人数を集めて一触即発状態になってるのに、統制を取ろうともしなければ、あたし達に罵声を浴びせることもしない。


「......」


 ただ腕を組んで、冷たい視線を送ってるだけ。もう何を考えてるのか、全く分からなかった。


 すると悠真くんは激しい殺気を放ちながら、小声であたしにそっとこう呟いたの。


「向日葵......俺が奴らに飛び掛かったら、その隙を突いて一気に逃げるんだ。絶対に振り返るなよ」


「嫌よ......悠真くん1人を置いてあたしだけ逃げれる訳無いでしょう?!」


「いいか、向日葵を守りながら俺1人で10人相手に戦えると思うか? 頃合い見て俺も直ぐ逃げるから聞き分けてくれ」


 つまり、あたしが居ると足手まといになるってことなんだろう。あたしなんかが居たところで戦力にならないもんね。


 でもね......


 悠真くんを置いて1人で逃げるなんて、あたしには出来無い。


 いつまでもあなたと一緒に居たいって言ったばかりじゃん! 殴られるんなら、あたしも一緒に殴られればいいのよ。そう思ったんで、


「嫌です! あたしはどこまでも悠真くんと一緒って決めたんだから!」


 悠真くんの提案を、思いっ切り拒否したわけ。


「向日葵......よく聞け。俺は男だから殴られるだけで済む。でもお前は女だから殴られるだけじゃ済まないんだ。分かったらもうこれ以上何も言うな。俺をこれ以上困らせないでくれ」


「......」


 なんだ、そう言うことか......なるほど。やっぱあたしって、お子様なんだよね。他に人なんか居ないし、叫んだって誰にも聞こえないだろうから。


 悠真くんに言わせれば、そんなこと他人に言われなくても、自分で察しろってことなんだろう。なんか急に、テンション下がっちゃったわ。なので、


「分かった。悠真くんの言った通りにする。でも......あたしが逃げ切ったら、悠真くんも絶対に逃げるのよ。あたしは直ぐに人を呼んで来るから」


「ご理解感謝する。じゃあ......始めるぞ」


「うん......」


 そんな計画の元で、


「このクソったれが!」


 悠真くんは突然怒鳴り声を上げたと思えば、直ぐに回れ右! なんと正面じゃ無くて、真後ろに飛び掛かって行ったの。


 スタスタスタ......!


「おっと、何だ?!」


 そんな悠真くんの意表を突く先制攻撃に、さすがの集団も一瞬怯んだみたい。慌てて防御のポーズを取ってるけど、追い付かない。


 悠真くんは後方を固めてた2人に見事タックルをかませて、思惑通りバリケードを崩してくれた。


 よしっ、今がチャンス!


 そんな訳で、プログラム通りあたしは一気にダッシュ。スタスタスタッ!


 ところが、


「あっ?!」


 残念なことに、あたしが今運動靴を履いて無いことに気付くのがちょっと遅かったみたい。なんと、石を踏んだ拍子に草履の鼻緒が切れちゃった。


 そんな訳だから、


 バサッ! 


 見事な転倒をやらかしてしまう。


 巾着は明後日の方向に飛ばしちゃってるし、お母さんに買って貰ったばかりの浴衣は、膝が切れて血が滲み出てるし......もう目も当てられないわ。


 それで何よりも最悪だったのが、


「逃げれると思ってんのか?!」


 既に2人の集団にあたしの身体が押さえ付けられてることだった。


「ひっ、向日葵! 大丈夫か?!」


「ご、ごめん、悠真くん......」


 正直......ほんと自分が嫌になっちゃう。なんであたしって、こんなにも鈍くさいんだろう。折角悠真くんがあたしを逃がす為に、無謀なタックルを繰り出してくれたのに......


 もう全部ぶち壊しじゃん!


 見ればあたしだけじゃ無くて、悠真くんも大勢に身体を押さえ付けられてる始末。


 鼻から血が出てる所を見ると、どさくさに紛れて殴られたんだろう。こうなっちゃうと、もう何も出来ない。


 まな板の鯉って、きっとこんな状態のことを言うんだろうね。



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