おまじない
やがて3分もしないうちに、僕はそこへ辿り着くことが出来た。
因みにその場所は、脇道と違ってなぜだか妙に明るかった。あちこちでオレンジ色の光がゆらゆらと照り輝いてる。
すると......
「止めろっ! 悪いの俺だ。向日葵には手を出すな!」
突然、そんな叫び声が響き渡って来た。
えっ?! 向日葵って......姉ちゃんがここに居るの?
それと、悠真くんの声だったような......2人して、ここに居るってこと?!
それと会話の流れからして、トラブってる?!
僕は思わず、木の影に身を隠してしまった。だって何だか、もの凄い怖そうだったから......
ど、どうしよう?!
出るに出れず、戻るに戻れず、ただ僕は木の影で、ブルブル震えてることくらいしか出来なかったのさ。かと言って、いつまでもこうしてる訳にもいかなかった。
だって食いしん坊のお母さんに、たこ焼き全部食べられちゃうじゃん!
そんな経緯で、まずはちょっとだけ顔を出して様子を伺ってみることにした。するとそこで僕が目にした光景は、想像を絶するものだった。
悠真くんは大勢に囲まれてるし、姉ちゃんは姉ちゃんで2人に押さえ付けられてるし。
僕はあまり目がいい方じゃ無いけど、彼らが持ってる松明のお陰で2人が浮かべる苦悩の表情までがはっきりと見えてしまった。
こりゃあ、一大事だ!
どうしたらいいんだ?
そうだ。そうだ! そうだ!!!
僕が2人を助けよう! だって僕は、戦士なんだから!
そんなこんなで、時刻は間も無く9時になろうとしてた。
僕がうっかり来てしまったが為に、修羅場が更なる修羅場へと変貌を遂げてしまうことも知らずに。
ああ、大変なことになっちゃったな......もうなるようになれだ......知らん!
※ ※ ※ ※ ※ ※
時刻はそれから少しだけ遡って、
8時30分。
ここへ来てるのが加奈子にバレちゃってることなんか、もちろんあたしと悠真君は知る由も無かったの。
知らぬが仏とは、きっとこう言う時に使う言葉なんだろう。
そんな呑気なあたしと悠真君が、その頃どうしてたのかって言うと......
「何とか見付からずに辿り着けたな」
「ああ、良かったわ......」
目的地に辿り着くなり、思わずヘナヘナヘナ......へたり込んじゃってたの。
もう見付かりやしないかって、ドキドキだったんだから! でもまぁ、結果良ければ全て良し。そんな具合で良かったんだと思うよ。
因みにこの場所は、御影神社のちょうど裏側。表の本堂側と違って、遥か遠く麓の街までが見下ろせる。
標高1000mから見えるそんな街の灯りは、参道で見た松明の火よりもずっと神聖に見えてしまった。とにかく、美しい夜景だからね。
そんな下界を見守るかのように、一体のお地蔵様が今日もここでにこやかな笑顔を浮かべてる。
気付けばあたし達2人は、そんなお地蔵様の笑顔を静かに見詰めてた。
「やっぱ、ここだったのね」
「その通り。因みに......覚えてるか?」
「覚えてるかって......もしかして、おまじないのこと?」
「ハッ、ハッ、ハッ、ビンゴだ」
「確か......願い事を紙に書いてお地蔵様の前の地中に埋めると、後日ご来光が射した時、願い事が成就するって話だよね」
「そう、それでなんだが......」
見れば悠真くんは、巾着袋の中から何かをモゾモゾと取り出している。とにかく薄暗かったから、たったそれだけの作業でも結構大変そうに見えた。
「ほいっ、これが俺用で、こっちが向日葵用だ」
「えっ、なに?」
目を凝らして見れば、それは2対の紙とペン。これで何をするのかと言えば、もう答えは1つしか無い。
「さぁ、お互いに願い事を書くとしよう」
やっぱそうだったみたい。
でも......
「悠真くん、こんな所じゃ暗くて書けないよ。どうしよう?」
「大丈夫、ちゃんと用意して来たから」
見れば再び悠真くんは、巾着袋の中を漁ってる。それで今度は何が出て来るのかと思えば、なんとローソク。
それを見たあたしは、悠真くんって意外とロマンチストなんだなぁ......何て少し思ってしまった。
スマホに向かって一言『フラッシュライトON!』って言っちゃえば、直ぐに解決しちゃう話だけど、雰囲気を考えればやっぱこれだよね。




