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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第1章 向日葵のはじまり
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大黒柱

「あら向日葵、どうしたの? 水浴びは夏だけにしといた方がいいわよ。賢也もお帰り」


 少しばかりふっくらとした体型。後ろで一つに束ねた黒髪には、幾分白いものが混ざり始めてる。


 きっと家事、子育て、パートの掛け持ちには苦労が絶えないんだろうね。今日も真っ白のエプロン姿がやたらと似合ってる。


 ずぶ濡れになったあたしの姿を見てそんな冗談言える位なんだから、お母さんも度胸が据わってるんだろう。


 とにかく何が起きても動じない性格。きっとあたしも、お母さんのそんな遺伝子を受け継いでるんじゃないのかな。


 それで開口一番、


「僕が奴らにからかわれてた所をさ、姉ちゃんが......」


 正直者の賢也が、正直なことを話し始めた。


「ちょっと足を滑らせて川に落ちただけよ」


 思わず正直な賢也の言葉を遮ってしまう正直じゃ無いあたしが居たりもする。


 別にそんなこと、正直に言わなくていいの! 男の子なんだから、少しはプライドを持ちなさい! なんて偉そうなことを言いたかっただけ。


 実際、賢也のことでお母さんに余計な心配掛けたく無かったことも事実だったりするんだわ。



 そんな軒先の横では、ひなびた玄関のガラガラ扉が全開に。見れば、お父さんの疲れた作業靴が履き捨てられてる。


「あら、今日はもう帰ってるんだ?」


「お昼食べに帰って来ただけ。仕事が忙しくてまた直ぐに蔵へ戻るみたいよ」


「ええ、こんな時間にお昼なの? そりゃあ大変だ」


 すると愛する家族の声を聞き付けたのか、渦中のお父さんが白衣姿でもっそりと現れて来た。


 結構大食いなんだけど、お母さんと違ってスリムな体型。きっと太らない体質なんだろう。白髪混じりではあるけど、50代でこのフサフサ頭は多少自慢出来ると思う。



「あんまり頑張り過ぎないで。お父さんが倒れたら家族揃って川に身を投げることになっちゃうんだからね。ハッ、ハックション!」


「お前、海水浴は夏だけにしろよ。風邪引くぞ。今なぁ、新作の日本酒製作の追い込みなんだわ。これが上手くいけば、俺は『※杜氏』になれるそうだ。まぁここは男の見せ所だな」


(※杜氏:日本酒の蔵で、酒造りの一切を取り仕切る責任者を言う。これは自慢出来る肩書き!......らしい)


 そうそう......


 言い忘れてたけど、お父さんはお隣の山菱酒造で働いてるの。と言うよりか、働かせて貰ってると言った方が正しいかも。


 元々は山菱酒造の社長さんから畑を借りて、キャベツ栽培で生計を立ててたんだけど、ここ何回かの台風で畑が壊滅的状況に陥っちゃって、やむ無く転職したって経緯。


 それで借金も有るから、今お父さんは本当に必死なんだと思う。こう見えて、責任感が強くて家族思い。やっぱ、一家の大黒柱だけのことは有るわ。


「じゅあ行って来るぞ」


「「「行ってらっしゃい」」」


 苦しい生活を忘れさせてしまう程の笑顔と、疲れを忘れさせてしまう程の元気な声て、主を送り出すあたしと賢也とお母さん。


 他の家のことはよく分からないけど、少なくともこの花咲家は、お金が無いこと以外ほんとに良く出来た家族だと思う。


 働き者の両親が居て、親思いの姉弟が居て、常に笑顔と会話に満ち溢れてる。


 貧乏のままでもいいから、こんな日常の幸せがいつまでも続けばいいなぁって、いつもあたしは思ってる次第。



「ハァ、ハクション!」


 気付けば鼻水がたらり......くしゃみも止まらないし、本気で風邪引きそう。突然自分が寒かったことを思い出して、風呂場へと駆け込んで行くあたしだった。



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