家族
目の前でおろおろしてるあたしの浴衣姿と、佳奈子の泣きじゃくる姿を掛け合わせて、きっとピンと来たんだろうね。
「お前、浴衣なんか来て一体誰と秋祭りに行こうとしてるんだ?」
ちなみに浴衣を着てるのはあたしだけで、お母さんも賢也も普段着。まさか浴衣まで着て1人で秋祭りに行くことも無かろうに......
「そ、それは......」
自分で言うのも何だけど、この時あたしは可哀想な程にブルブル震えてた。今にも手から可愛い巾着を落としそうになっちゃう程だ。
「河村さんとこのご子息だな?! お前は一体どこまで俺に恥をかかせるつもりだ! ダメだ。絶対に家から出さん! さっさと着替えて2階に上がれ!」
ここでようやく佳奈子を甘く見過ぎていたことに気付くあたし。
いくら何でもそこまでは......なんて高を括っていた自分の愚かさが、もどかしくてならなかった。
悠真さんの所へ行きたい......
でもこれ以上家族想いの父に、迷惑を掛けたくない......
どうしよう? もうどうしよう? 一体あたしは、どうしたらいいの?!
頭が混乱し過ぎて、返す言葉が全く頭に浮かばなかった。
だだ悲しい......もう悲し過ぎて、どうにもならない。
そんなあたしに助け船を出してくれたのは、やっぱこの人だったの。
「向日葵はもう高校生。法律のことはよく分からないけど、もう立派な大人だと思ってる。良いことと悪いことの区別くらいはとっくにつく年齢だわ。
確かに、お父さんが一生懸命働いてくれてるおかげであたし達は今生活が出来てる。そのことに関しては、もちろんあたしも向日葵も感謝してるの。
でもね......いくらうちが貧乏でも可愛い娘の幸せを犠牲にしてまで、あなたに出世して欲しいなんて思って無いわ。
そもそも他人の娘の話だけ聞いて、自分の娘の話を聞こうとしないあなたの態度があたしは理解出来ない。
それと......あたしの可愛い向日葵に向かって、今後絶対に泥棒猫なんて言わないで! もしあなたに善悪の区別がつくなら、それくらい言わなくても分かるでしょう。
とにかく......あなたが何と言おうと、向日葵は秋祭りに行かせます。さぁ、向日葵、行ってらっしゃい。悠真くんを待たせちゃダメよ」
「な、なんだと? 俺が向日葵を不幸にしてるって言うのか?! 俺はこいつの為を思って言ってやってるんだぞ!
そもそも俺が仕事をクビになっちまったら、お前ら全員飢え死にしちまうじゃないか! 一番分かってないのはお前の方だ!」
「お父さん、向日葵を泣かしたら僕が許さないぞ!」
「なんだ、お前もそっちに味方するのか?!」
気付けば、お母さんはあたしを玄関の外へ強引に押し出そうとしてるし、賢也は賢也で悠真くんに教えて貰った空手のポーズを取ってるし......
このままじゃ、家族がバラバラになっちゃう!
もう嫌だ......あたしの宝物は、この仲のいい家族なんだから!
家族の幸せは、家族みんなのもの。家族の幸せは、あたしだけのものじゃない......
「もう止めて! 別にあたし行っても行かなくてもどっちでも良かったんだ。何か行くの面倒臭くなって来ちゃった。だからお父さん、もう安心して。あたし行かないから。あたしは大事なお父さんの娘だよ」
「ひっ、向日葵! 何言ってるの?!」
「ね、姉ちゃん!」
「そっ、そうか。やっと分かってくれたか!」
きっとこの時お父さんの頭の中では、『クビ』と言う厄介なテロップが頭の中を流れ続けてたんだと思う。
家族を大事に思う一家の大黒柱だったら、そんなことになる訳にはいかないもんね......
「ちょっと向日葵、あなた何言ってんのよ! 昨日から散々楽しみにしてたんじゃない。こんな分からず屋に屈服する必要なんて無いのよ!」
「向日葵、行かなきゃダメだ!」
そんな応援団の後押しも虚しく、
「ごめん、何だかあたし眠くなって来ちゃった。もう部屋に戻って寝るね。お休み......」
トントントン......
そして1人寂しく、2階の部屋へと戻っていくあたしだったのでした。




