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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第2章 向日葵の決心
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向日葵専用

「このヘルメットは新品だ。それと......よく見てみろよ」


 一体何を見ろと言ってるのか分からなかったけど、確かにキレイだし傷一つ付いて無い。彼の言うように、きっと新品なんだろう。


 更に、


「これって......」


「いや、ちと恥ずかしいんだが......」


 なんと! そんな薄ピンク色のヘルメットの横には、5つの文字が認められてたの。


『向日葵専用』


 そんな文字を見た途端、あたしの頭の中に犇めいていた雑音が、一気に吹き飛んでしまったような気がする。


 なんか全身の力が抜けてくような......


 血圧が正常値に戻っていくような......


 とにかくこの時、無数のトゲが心から抜け去ったことだけは間違い無かった。



 そんなあたしは今、悠真さんの目を正面からしっかりと見詰めている。


「分かった......信じる」


 それが本心だった。



「いつかこんな日が来るだろうと信じて、早めに買っといたんだ。まさかこんなに早く来るとは思って無かったけどな」


 なんか頭をボリボリ掻いてる悠真さん。きっと彼も、精一杯の話をしてくれたんだろう。



 そんな彼の気持ちを察したあたしは、


「悠真くん!」


「ん、なんだ? 『さん』から『くん』にランクアップしてるぞ!」


「あたしお腹空いちゃった。早く食べに行こうよ!」


「そ、そうだな。よし、任せとけ!」


 ブルルン、ガガガガッ......



 正直、あたしはもう悠真くんの口から何も聞く必要は無いと思ってた。間違い無く彼の言ってたことは事実なんだろう。


 直ぐにあたしを追い掛けて来てくれたことも嬉しかったし、


 あたしを熊から救ってくれたことも嬉しかったし、


 ヘルメットのことも、特大に嬉しかった。


 そして何より嬉しかったのは、今こうしてあなたと同じ時を過ごせていること。



 あたしはこの後何が起ころうとも、決して後悔しないと思ってる。例え何が起ころうともね。


 今あたしは、そんな彼の温かい背中に顔を埋めて、この幸せな瞬間を噛み締めてる。だって幸せの時間なんて、いつまで続くか誰にも分からないことだから。


 ただあたしは神に願う。この幸せが永遠に続くことを。秋祭りと言うその日を乗り越えてね......


 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一方その頃......


 悠真くんが飛び出してしまった河村家では、何が起こってたかと言うと、予想に違わず大変なことになってたの。



「一体どうなってるんだ?! お宅の悠真君はどこへ行ってしまったんだ!」


「いやぁ、それがどうも......も、申し訳無い。お、おい、和美さん! このタオル、一体誰が持って来たんだ?」


 突然火の粉が降って来た家政婦(和美)さんは、ただ狼狽えてるばかり。


 正直に言っていいものやら......


 言っちゃいけないものやら......


「そ、それは......」


 正直に言いそうになって、途端に口を閉じてしまう家政婦さんだった。



「花咲向日葵......あたしの同級生よ。うっ、うっ、うっ......」


 そんな悠真の父からの質問に、涙を浮かべながら答えたのは家政婦の和美さんに有らず。すっかり恥をかかされたその者だったのである。


「ええ? あなたの同級生なの? その花咲さんが......何でこんな所に?」


 何も知らぬ佳奈子の母が、真っ先に反応を見せた。


 この栄えある『いいなずけ』の儀に、同級生、しかも女子の乱入ともあれば、黙って見過ごす訳にもいかないのだろう。


「花咲って言ったら、うちの社員の娘じゃないか! 一体こんな時に押し掛けて、どう言うつもりなんだ?!」



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