リーダー
でも姉ちゃんさ......目を合わせなくても無理じゃ無い? 弟の目から見たって今のその格好、ヤバ過ぎると思う。
因みに今日は無風。さっきから全然乾いて無いし。絶対関わってくると思う。
「あれれ......こいつずぶ濡れじゃん!」
「カッパか?」
「俺達が温めてやるぜ!」
うわぁ、思った通り、最悪だぁ!
近くで見ると、尚更筋金入りの不良にしか見えない。5人居るけど、そのうち3人がタバコ咥えてる。過半数超えてるわ。
さっきのガキ大将達が可愛く思えてくるのは僕だけか?
いつの間にやら、思いっ切り目の前に立ちはだかってるし。
僕はもうすっかりチビってたけど、姉ちゃんは全然怯んで無い。やっぱ度胸有るわ......
「すみません、道を開けてく・れ・ま・せ・ん・か?」
モグラが地中で騒ぎ出す程のローボイス。かなり怖かった。
「別にそんな嫌わなくたっていいだろ。おっと......お姉さんうちの高校だな。たまに見る顔だわ」
「あれれ、なんだ可愛い顔してるじゃん! ちょっとこれから俺達と遊びに行こうぜ!」
「弟を家まで送らないといけないもので。それじゃあ失礼!」
僕を後ろに隠しながら、重戦車の如く姉ちゃんがバリケードを突破しようとしたその時だった。
「だったら弟も一緒に連れてってやる。さぁ来い!」
なんと先頭の不良は、姉ちゃんを通り越して僕の腕を掴んで来た。ちょっと痛いって!
「な、なにするんだ?!」
そんなフェイント攻撃に対して、僕が反射的にソプラノボイスを上げた正にその時のこと。
「止めとけ」
不良達の一番後ろから、突然そんなテノールボイスが。何でそんなに殺気染みた声なのかは分からないけど。
すると、ピタリ。
なぜだかその者達の動きが止まってしまった。 きっと目には見えない足枷が、彼らの足に纏わり付いたんだろう。
「なんでだ?!」
「俺が止めろって言ってんだ。言うこと聞けないのか?」
「い、いや......そ、そんなつもりは無い。わ、分かった......さぁ、行くぞ」
トボトボトボ......
きっとサルじゃ無くて、イノシンじゃ無くて、野犬の集団だったに違いない。リーダー犬には逆らえなかったんだろう。
「別にお礼なんて言うつもり無いですから!」
「これで頭拭いたらどうだ? 風邪引くぞ」
なんとリーダー犬は、首に掛けていたタオルを姉ちゃんの頭の上に置いて、
ゴシゴシゴシ......拭き始めたじゃないか。
「ちょっと何するんですか?! 結構です!」
「弟の為に川へ飛び込むなんて見上げた根性だ。気に入ったぜ! それじゃあまた。ハッ、ハッ、ハッ」
「あなた見てたの?!」
慌てて姉ちゃんが頭からタオルを剥がしてみると、もうそこにリーダー犬の姿は無かった。
正直言って、僕は不良が大嫌いだ。不良は僕をいじめるからね。
でも今のリーダー犬は、ちょっと違った気がする。弱い者いじめするどころか、それをしようとした不良達を諌めてくれてたし。
ちなみに背が高くて、足も長くて、田舎っぽく無い顔してた。それと学ランもちょうどいい長さだったしね。
そんな訳で、かっこ良かった! なんて思ったのは僕だけかと思いきや......
「顔が真っ赤だよ。姉ちゃんはさっきの人が好きになっちゃったんだね」
そんなカマをかけたら、
「ちょっと何バカなこと言ってるの? ませたこと言わないの」
否定しない姉ちゃんがそこに居た訳さ。弟ながらに思うけど、きっと恋多き年頃なんじゃないかな。
ちょっと生意気かって? それくらいは中1でも分かるさ。
そんなこんなで......
僕に取っても姉ちゃんに取っても、今日は波乱だらけの1日だった。
まぁ、全て結果オーライだったけど、もし姉ちゃんが現れなくて僕が川に飛び込んでたら......
更に、もしリーダー犬が居なくて僕達が不良高校生達に連れてかれてたら......
そんな風に考えると身のすくむ思いがする。
僕がもっと強くなって、大好きな姉ちゃんを助けてあげなきゃダメだって、今日はつくづく思ってしまった。
そんな姉ちゃんと2人、はちまきを締め直して、今度こそ本当の家路へとついていくのでした。
めでたし、めでたし......
なのかな?
よく分からん。




