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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第1章 向日葵のはじまり
3/178

リーダー

 でも姉ちゃんさ......目を合わせなくても無理じゃ無い? 弟の目から見たって今のその格好、ヤバ過ぎると思う。


 因みに今日は無風。さっきから全然乾いて無いし。絶対関わってくると思う。



「あれれ......こいつずぶ濡れじゃん!」


「カッパか?」


「俺達が温めてやるぜ!」



 うわぁ、思った通り、最悪だぁ!


 近くで見ると、尚更筋金入りの不良にしか見えない。5人居るけど、そのうち3人がタバコ咥えてる。過半数超えてるわ。

 

 さっきのガキ大将達が可愛く思えてくるのは僕だけか?


 いつの間にやら、思いっ切り目の前に立ちはだかってるし。


 僕はもうすっかりチビってたけど、姉ちゃんは全然怯んで無い。やっぱ度胸有るわ......



「すみません、道を開けてく・れ・ま・せ・ん・か?」


 モグラが地中で騒ぎ出す程のローボイス。かなり怖かった。


「別にそんな嫌わなくたっていいだろ。おっと......お姉さんうちの高校だな。たまに見る顔だわ」


「あれれ、なんだ可愛い顔してるじゃん! ちょっとこれから俺達と遊びに行こうぜ!」


「弟を家まで送らないといけないもので。それじゃあ失礼!」


 僕を後ろに隠しながら、重戦車の如く姉ちゃんがバリケードを突破しようとしたその時だった。


「だったら弟も一緒に連れてってやる。さぁ来い!」


 なんと先頭の不良は、姉ちゃんを通り越して僕の腕を掴んで来た。ちょっと痛いって!


「な、なにするんだ?!」


 そんなフェイント攻撃に対して、僕が反射的にソプラノボイスを上げた正にその時のこと。



「止めとけ」


 不良達の一番後ろから、突然そんなテノールボイスが。何でそんなに殺気染みた声なのかは分からないけど。


 すると、ピタリ。


 なぜだかその者達の動きが止まってしまった。 きっと目には見えない足枷が、彼らの足に纏わり付いたんだろう。



「なんでだ?!」


「俺が止めろって言ってんだ。言うこと聞けないのか?」


「い、いや......そ、そんなつもりは無い。わ、分かった......さぁ、行くぞ」


 トボトボトボ......


 きっとサルじゃ無くて、イノシンじゃ無くて、野犬の集団だったに違いない。リーダー犬には逆らえなかったんだろう。



「別にお礼なんて言うつもり無いですから!」


「これで頭拭いたらどうだ? 風邪引くぞ」


 なんとリーダー犬は、首に掛けていたタオルを姉ちゃんの頭の上に置いて、


 ゴシゴシゴシ......拭き始めたじゃないか。


「ちょっと何するんですか?! 結構です!」


「弟の為に川へ飛び込むなんて見上げた根性だ。気に入ったぜ! それじゃあまた。ハッ、ハッ、ハッ」


「あなた見てたの?!」



 慌てて姉ちゃんが頭からタオルを剥がしてみると、もうそこにリーダー犬の姿は無かった。


 正直言って、僕は不良が大嫌いだ。不良は僕をいじめるからね。


 でも今のリーダー犬は、ちょっと違った気がする。弱い者いじめするどころか、それをしようとした不良達を諌めてくれてたし。


 ちなみに背が高くて、足も長くて、田舎っぽく無い顔してた。それと学ランもちょうどいい長さだったしね。


 そんな訳で、かっこ良かった! なんて思ったのは僕だけかと思いきや......



「顔が真っ赤だよ。姉ちゃんはさっきの人が好きになっちゃったんだね」


 そんなカマをかけたら、


「ちょっと何バカなこと言ってるの? ませたこと言わないの」


 否定しない姉ちゃんがそこに居た訳さ。弟ながらに思うけど、きっと恋多き年頃なんじゃないかな。


 ちょっと生意気かって? それくらいは中1でも分かるさ。



 そんなこんなで......


 僕に取っても姉ちゃんに取っても、今日は波乱だらけの1日だった。


 まぁ、全て結果オーライだったけど、もし姉ちゃんが現れなくて僕が川に飛び込んでたら......


 更に、もしリーダー犬が居なくて僕達が不良高校生達に連れてかれてたら......


 そんな風に考えると身のすくむ思いがする。


 僕がもっと強くなって、大好きな姉ちゃんを助けてあげなきゃダメだって、今日はつくづく思ってしまった。



 そんな姉ちゃんと2人、はちまきを締め直して、今度こそ本当の家路へとついていくのでした。


 めでたし、めでたし......


 なのかな? 


 よく分からん。


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