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天国と地獄  作者: 吉田真一
第2章 向日葵の決心
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いいなずけ

 バタンッ!


 気付けば俺は、椅子をふっ飛ばして立ち上がってる。巻き起こったバイブレーションは床を伝い、テーブルを経由し、そしてアールグレイに津波を引き起こしていた。


「おい悠真! 俺が話してる時にお前は何やってるんだ?!」


 きっとそんな親父の怒鳴り声が聞こえて無いのは、俺だけだったと思う。大量のアドレナリンが全身に行き渡って、聴覚を麻痺させてたに違いない。


「ちょっとそれ見せろ!」


「え、あ、はい......」


 俺はきょとんとしてる家政婦さんから、今届いたばかりのビニール袋を引ったくる。それがスケルトンの袋であるが故に、開けるまでも無いことだった。



 キレイに洗濯されたタオル......それが何なのか? そんなの言うまでも無い。


「向日葵が来たんだな!」


「あ、は、はい。花咲向日葵さんとおっしゃっておりました。今は悠真様と佳奈子様の『いいなずけ』の儀が行われている為、お通し出来ない旨伝え、お引き取り願ったところです」


「な、なに! 佳奈子と『いいなずけ』だって? そ、そんな余計なこと言ったのか?!」


 今更の如く、唯一の連絡ツールたるスマホを部屋に置いて来たことを悔やむ俺だった。きっと何度も、連絡をくれてたんだろうに。


 ご、誤解だ!


 ま、待ってくれ、向日葵......



 時刻はまだ15時を過ぎたばかり。


 間も無く真っ赤な夕日が河村家の邸宅を包み込み、やがては夜が訪れる。


 秋祭りの前日たる今日と言う1日は、まだまだ始まったばかり。


 きっと悠真に取っても、向日葵に取っても、生涯忘れられない前夜祭となるのだろう......


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 一方、


 お隣の寂蓮村でそんな『いいなずけ』の儀式がこれから行われることなど露知らず......1時間前の出来事。


 花咲家では、


「やったぁ、これで全部終わった。あらら......もう14時じゃん! 急がないと不味いわ!」


 漸く抜き終えた庭の雑草を端に積み上げ、駆け足で洗面所へとなだれ込んで行くあたしこと、向日葵だった。


 ジャー......泥だらけになった手を洗いながら顔を上げてみると、おでこや頬っぺに泥が跳ねまくった自分の顔が鏡に映し出されてる。


 なんかあたしの顔って、いつ見ても色気無いわ。佳奈子なんか、いつもバッチリメイク決めてるのに......


 もしかして、佳奈子にライバル意識燃やしてる? そりゃ無いか......育ちが違い過ぎて、あたしなんかじゃ佳奈子の相手にならないわ。


 なんて、自虐ネタに花を咲かせつつも、いつもよりちょっとだけ濃い目のメイクを敢行してしまうあたしは、やっぱ負けず嫌いなんだろう。



 因みに今日は土曜日。


 日曜でも無いのに、なんで今あたしがメイクなんかしてるのかって言うと、今日は高校が休みだからなの。


 明日の秋祭りにうちの高校も協賛してて、前日は準備に忙しいから毎年恒例でこの日は休みになってるって次第。


 それで今日はお母さんとの前からの約束で、朝から家の内外で大掃除をしてたわけ。ここのところ忙しくて、あちこちが煤汚れてたからね。


 午前中は家の中を全部掃除して、午後からは裏庭の雑草を抜き始めて今漸く終わったところ。


 結構雑草が伸びてて、こんな時間まで掛かるとは思って無かったわ。



 そんな経緯で慌てて部屋に戻ると、まずは丁寧に手洗いした『タオル』をビニール袋に入れてリュックの中にしまい込んだ。


 最近ちょっと忘れっぽいから、先に入れておかないと心配なんだわ......もうあたしも年なのかしら? 


 すると、


 あら、いい匂い......高い柔軟剤使っただけのことは有る。きっと彼も喜んでくれるんじゃないかな?


 そんな香りの余韻に浸りながら、あたしは同時にその人の顔を頭に浮かべた。


 悠真さん、明日の秋祭り......こんなあたしで良ければ、是非連れてってやって下さい。


「あちゃあ......顔が真っ赤になってる! そんなことちゃんと言えるかな? かなり不安だわ......」


 やっぱこう言うのって、直接本人の前で言うのが一番いいと思ったの。


 メールとかLINEとかだと素っ気無いって言うか、気持ちが籠って無いって言うか......なんか、そんな気がしちゃってね。



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