八つ当たり
あたし達がそんな取り留めの無い話に明け暮れてるうちにも、
「さぁ向日葵、帰るわよ。夜ご飯の支度間に合わなくなっちゃうわ」
「分かった。帰ろう」
「実菜も帰るわよ」
「は~い! じゃあヒマちゃん、どっちに転んでも後悔だけはしないでね。バ~イ!」
「バイバイ......」
夕日をバックに満面の笑顔で手を振る実菜ちゃん。そんな彼女に対し、あたしも精一杯の笑顔で手を振り返す。
なんか幸せが滲み出てる笑顔って、ほんとに光り輝いてるなぁって思った。
果たしてあたしにもあんな忖度無しの笑顔を浮かべる日が来るのか? なんて、少し不安になったりもしてしまった。
そして、ふぅ......あたしが1つ大きな溜め息をつくと、
「若者よ......多いに悩みなさい。なんてね」
どうやらお母さんの前では、あたしの心なんてスケルトンみたい。何でもお見通しって感じだわ。
「別に悩んでなんかないわよ! もう、腹立つ!」
「ハイハイハイ......」
「それはそうと、お母さん何よその荷物?」
お母さんの手には大きな紙袋が。見れば『ファッションセンターいまむら』のロゴが入ってる。
「ああこれ? ちょっと安かったから、思い切って買っちゃった! お父さんには内緒よ」
心を見透かされたことと合わさって、その一言に思いっ切りカチンとしてしまった。
「衝動買いなんかしてたらダメじゃん! 節約してる意味無いでしょ! あたしだって新しい服買いたいのに我慢してるんだから!」
「分かった、分かった。はいこれ口止め料。だから口にチャックね」
見れば500円玉をあたしに差し出してる。いつもなら喜んで受け取るところなんだけど、今日のあたしはちょっとご機嫌斜めだったみたい。
「そう言うのを無駄遣いって言うの! そんなお金が有るんだったら、自分の服ばっかじゃなくて、賢也の服を買ってあげて! だから貧乏はいやっ!」
「......」
多分あたしに正論を突き付けられて、ぐうの音も出なかったんだと思うよ。
そこまで親に言うか? って少しは思ったけど、全然ストッパーが効かなかった。きっとこう言うのを、八つ当たりって言うんだろう。
一方、そんなあたしのイライラに対してお母さんは無言。今は何を言ってもダメ......きっとそんな風に思ったんだろう。あたしの性格をよく分かってるからね。
ブルルンッ、ガガガガ......
辺りはもうすっかり日が暮れてる。街中こそは外灯がいっぱい点いてたけど、山間の一本道に入っちゃうとそこはもう真っ暗闇。車の前照灯が無かったら、目を瞑ってるのと同じだわ。
正直......ちょっと空気が重くなってしまった。せめてラジオか音楽でも掛かってれば良かったんだけど、どう言う訳か今は掛かって無い。
シーン......何なのよこの沈黙は!
ちょっと車降りたくなって来たわ。なんて......本当に降りたら、間違いなく熊に襲われるって。
さすがに貧乏な花咲家の長女として『貧乏はいやっ!』は言っちゃいけなかったと、少し後悔してたところだったから、
「お母さん、お父さん山菱酒造の仕事頑張ってるんだよね?」
どうでもいいようで、どうでも良くない話を切り出してみた。
「いきなりどうしたの? うん、どうなのかしら? この前の話だと、今お父さんが手掛けてる日本酒の新作品が上手く行けば『杜氏』になれるって張り切ってたわ。つまり責任者になる訳だから、お給料が上がるってことね」
やっぱお母さんは大人だ。何の凝りも無く普通に話を返してくれた。




