親友
ちなみに、その他のテーブルは全て空席。結構ガランとしてる。少し暗くなって来たし、みんな買う物買ってとっとと家に帰る時間なんだろうね。
そんな中、実菜ちゃんが口の中にいっぱいチョコバナナを詰め込みながら話を切り出して来た。
「そうそう......ひまちゃんは秋祭り誰と行くの?」
おっと、いきなり来たか?! なんて思いつつも、
「うん......どうしようかと思って」
まずはお茶を濁してみる。
「あたしはね、決まったよ」
「えっ、誰?」
「誰だと思う?」
そんなの1人しか居ないでしょうって! 大地君に決まってるわ。
多分それをあたしの口から言わせたいんだろう。でも不思議だよね......見え見えなんだけど、実菜ちゃんが言うと全然嫌味が無いんだから。
むしろ幸せそうな実菜ちゃんの顔を見て、あたしの方が嬉しくなって来ちゃった。
「ええ? 分かんない。誰?」
「じゃあ......教えてあげるね。あたしと秋祭りに行く人はね......」
「行く人は?!」
さぁどうぞ! 大地君って、言っちゃて下さい!
はい、3、2、1......
GO!
「悠真さんよ」
「ゲッ! おえっ!」
「嘘よ。大地君。昨日正式に決まったわ」
ちょっと! 胃の中のイチゴが、鼻の奥に上がって来たわ! ほんと、冗談は勘弁して欲しいよね......
「おえっ、よ、良かったね実菜ちゃん。お、おめでとう! おえっ......」
鼻の奥のイチゴを無理矢理吸い込んだら、今度は気管に入ってしまった。
「大地君って、不器用でがさつだけど、夢を持ってる人って、輝いて見えるんだよね」
「うん、確かヘリコプターの操縦士になりたいって言ってたよね。ゴクンッ」
ようやくまた胃に戻すことが出来た。お騒がせしました......
「あたしなんか、ただなんとなく学生生活送ってるだけで、将来何になりたいとが全然考えたこと無いもんね」
実菜ちゃんは自己嫌悪。
「実菜ちゃん、それはあたしも同じだよ」
あたしも自己嫌悪だわ。
「そうそう......それでヒマちゃんはどうするの? さっき悩んでたみたいだけど」
「それがね、しかじかこうこう......」
あたしは親友を信じて、全てを話してみた。こう言うことは、信頼してる人からアドバイス貰うのが一番いいもんね。
「やっぱ河村悠真さんか......なるほど、そっかぁ。じゃあ、ヒマちゃんだから言っちゃうけど......
はっきり言ってあの人地元の寂蓮村じゃ、あんまり評判良く無いみたいよ。結構けんかっ早いって有名だし......
それと金持ちの息子で、山菱佳奈子の山菱酒造の家とは家族ぐるみの付き合いしてるって噂。佳奈子は悠真さんにぞっこんだよね。でも......」
「でも?」
「愛に勝るものは無いと思うよ。けんかっ早いって言っても、自分より弱い人には絶対手を出さないのかも知れないし。
どんなに大きな障害が有ったって、あたしなら迷わず突っ走っちゃうな。だって人はみんな幸せになる権利が有るんだから」
「幸せになる権利?」
「そうよ。幸せにならなかったら、何の為に生まれて来たか分かんないじゃん」
「そっか......」
確かに実菜ちゃんの言ってることは、あたしが望んだ期待通りの答えだったと思う。そこまできっぱりと言ってくれたことは、本当に有難いわ。
でもあたしの頭の中には、依然として厚い雲がひしめいてる。お父さんの仕事のことも気になるし、佳奈子のことも気になるし......
はっきり言っちゃって、今あたしは悠真さんのこと好きなような気がしてる。
でもその気持ちはただの錯覚かも知れないし、一時的な盛り上がりだけなのかも知れないし......
かと言って、断ったら後で後悔するような気もしないでも無い。
正直、まだ答えを出し切れてない自分がそこに居た訳さ......
とは言っても、秋祭りはもう明後日に迫ってる。早く答えを出さなきゃ多くの人に迷惑を掛けるってことだけは間違い無かった。ほんと、自分が優柔不断過ぎて嫌になっちゃう......