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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第1章 向日葵のはじまり
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反省

 一体あたしの何が間違ってるって言うのよ?! まさか放っておけとでも言うつもり? 賢也は身体も小さいし心も弱いんだから! あたしが助けなくて、誰が助けるって言うの?!


 多分この時、あたしの顔は鬼みたいだったと思う。きっとこう言う精神状態のことを、パニック状態って言うんだろう。



「賢也、君はこの優しいお姉さんに心配を掛けたいか?」


「心配なんか......掛けたく無い」


「だったらどうすればいいんだ?」


「それは......」


「それは?」


「強く......なり......たい」


「ん? よく聞こえなかったぞ。何て言ったんだ?」


「強く......なりたい」


「まだよく聞こえなかったぞ。強く......なんだって? お姉さんに聞こえるように、もっとはっきり言ってみろ! 強く?」


「つ、強くなりたい! あんな奴らに2度と負けたく無い! くそぉ!」


「よし、よく言った! 君は誇り高き戦士だ!」


「ぼ、僕が戦士?!」


「そうだ、凄腕格闘家だ!」



 正直......


 あまりに話の展開が早過ぎて、あたしの頭は全く付いていけなかった。


 ただ1つだけ言えることが有るとすると、それまで話の主導権を握ってたあたしが今や蚊帳の外。お呼びで無い状態にまでランクダウンしてるってこと。


 見れば賢也の目は爛々と輝いてるし、心なしか髪の毛が逆立ってるように見えなくも無い。


 もしかしたらそれは、いつもネガティブ思考の愛する弟が、初めて見せたポジティブポーズだったのかも知れない。



「悠真さん......」


 今思い返せば、この時からだったと思う。あたしがこの悠真と言う人への見方が少し変わって来たのは。


 ただこの時点の感情は、まだ尊敬とか信頼レベルの話であって、決して異性を意識するようなものじゃ無かったと思う。まぁ、多少は有ったかも知れないけどね......



 一方そんな彼らの方はと言うと、 夕日とお地蔵様とリリーとゴローをバックに、


「それ、ここでパンチだ!」


 バシッ、バシッ......


「おっと脇のガードが甘いぞ。それっ!」


 バシッ!


「くっそう! てやぁ!」


 バシッ!


 御影神社の裏に籠って、キックボクシングの練習を始めてたのでした。


 リリーとゴローの柵で囲まれたスペースが、リングに早変わりだ。


 とにかく行動が早いことに関してだけは、頭が下がる。


 メェ~、メェ~......


 きっとそんな2匹のヤギも、気を使ってくれたんだろう。端に寄ってギャラリーに成り切ってくれてる。


 1人(1匹)でも多く見て貰ってた方が、そりゃあ気合いが入るもんね。


 一方お呼びで無いあたしはと言うと、そんな柵に腰掛けて、足をブラ~ン、ブラ~ン......愛すべき弟の勇姿を静かに見守ってた。


 なんか長閑って言うのか......


 微笑ましいって言うのか......


 そんな様子を見てると、さっきまで怒ったり泣いたり一人芝居を演じてた自分が恥ずかしく思えてきちゃう。


 あたし、賢也のこと分かってるつもりで全然分かって無かったんだなぁ......なんて反省仕切り。まだまだ自分は浅い......もっともっと社会勉強してかなきゃだわ。



 カ~、カ~、カ~......


 そんなあたし達3人の姿を見下ろしながら、カラスの親子が頭上を通り過ぎて行く。きっと彼らも人間同様、夕日に包まれると、温かい我が家へと帰還して行くんだろう。



「ダメだ......もう疲れた。今日はこれくらいにしておこうぜ」


「なんだもう終わり? 悠真は体力無いなぁ」


「いや参った。降参だ。さぁ、父さんと母さんが心配するから今日はもう帰ろう。続きはまた明日だな」


「悠真さん、そんな約束していいの? 明日は筋肉痛で動けないんじゃない?」


「向日葵はよく分かってるな。絶対筋肉痛にぎっくり腰だ。ハッ、ハッ、ハッ。何か......お地蔵さんも笑ってるみたいだな」


「あら、ほんとだ」


 もちろんお地蔵様の表情が変わるなんてことは有り得ない。


 でもその時の自分の気分に寄って、楽しそうに見えたり、悲しそうに見えたり、はたまた怒ってるように見えたり......違った表情に見えてちゃうことは有ると思うよ。



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