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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
最終章 そして10年後
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鉄拳

 もしかしたら......


 加奈子は今日あたしのところに現れる前から、この展開を想定してたのかも知れない。そうでも無ければ、物ポケットの中にそんな物入れとく訳が無いから。


 今日彼女は、間違い無くあたしに許しを乞う為ここへやって来た。その代償として、加奈子はそんなけじめの付け方に辿り着いたんじゃ無いのかな。


 加奈子らしいって言うのか、何と言うのか......


 いずれにせよ、少しだけ彼女の気丈な姿が見れて懐かしかったし、ちょっとばかり嬉しくなるあたしがそこに居たりもした。


 そして、


 そんな加奈子の辿り着いたけじめ......


 それは?!


「向日葵! 見届けて!」


 なんと!


 ポケットから素早く出したものはライターだった。それをどう使おうか何てことは、今更言う迄も無い。


 シュポッ!


 火を灯すや否や、一気に顔へと近付ける!


「バカッ!」


 あたしは反射的に彼女からライターを奪い取ってた。


 そして、ビシッ! 


 思いっきり加奈子の頬を叩いてやった。多分それも反射的行動だったんだろう。


 ちなみにその一撃はかなりのクリティカルヒット。手の平は真っ赤だったし、その後1分位はジンジン痺れてた。


 そんな訳だから加奈子は地にひれ伏してる。完全に吹っ飛んでたし。


 きっとあたしが繰り出した一撃には、短かったような長かったようなよく分からないこの15年間と言う月日の重みが隠し味になって加わってたんだろう。


 そうともなれば、加奈子の身体が吹っ飛ぶのも当然の結果と言えた。



 やがて加奈子は、フラフラにながらもゆっくりと身体を起こす。そしてあたしを見詰める彼女の顔はと言えば......


「あらら、ひどい顔だわ......」


 目蓋も頬も真っ赤になって、鼻血が鼻水みたいに垂れ落ちてる。よくよく見て見れば、あたしの手形が彼女の頬にうっすらと浮かび上がってる。


 しかも倒れた拍子に顔を地面に打ち付けたんだろう。顔半分が泥だらけだ。 


「酷いって......あたしの顔どうなっちゃってるの? 何だか顔半分がシビれて感覚無いんだけど」


 どうやら本当にシビれてて痛みを感じて無いらしい。ちょっと強く叩き過ぎた? などと今更懺悔したところで、今更どうにもならない。



「見たい?」


「ええ......恐いけど」


「じゃあ一緒に見ようか」


「......」


 そんな経緯で、あたしはスカートのポケットの中から手鏡をまさぐり出した。


 なんでそんな物がポケットの中に入ってるかと言うと、いつも前髪で火傷痕がちゃんと隠れてるかチェックするのが日課になってたから。


 初めて見る人はびっくりしちゃうからね。これも身だしなみの一つだと思ってる次第。



 そんな手鏡を手に取ったあたしは、加奈子の横に並んで加奈子が見易いような角度で目の前に掲げた。


 すると、2人の目の前に映し出された2人の顔はと言うと、


「あらら、こりゃあ酷い顔だわ」


 加奈子が自らの顔を見て感動の声を上げると、


「確かにそうね。でも......意外と可愛いかも」


 本当にそう思ったから、正直に言ってしまった。


「どこが?」


 すると加奈子の顔が膨れっ面に変化する。確かに酷い顔だけど、なぜかそれが不思議と可愛くも見えたりもする。


 あたしの知ってる加奈子の姿は、いつもきれいに化粧してて、シワ一つ無いきれいな服着てて、汚れとは無縁な姿ばかりだった。


 でも今の彼女の姿は違った。髪の毛も服も土を被り、薄化粧も涙で崩れしかも顔を腫らせてる。


 そんなある意味新鮮な彼女の姿が、あたしの目にはそんな風に映ったのかも知れない。



「何だか......こうして並んで見ると、あたし達の顔って似てるよね」


「確かに......同じ顔だわ」


「加奈子......」


「なに?」


「痛かった......かな?」


「うん、痛かったよ。でも......向日葵に比べたら......全然」


「確かに......あの時は凄い熱かったし、痛いとも思った。でも......」


「でも?」


「もう昔のこと過ぎて忘れちゃったわ」


「あなたの顔をそんな風にしちゃって......本当に......ごめん。それと......弟さんのことも......許して欲しいなんて、そんな都合のいい話無いよね。うっ、うっ、うっ」


 手鏡から目を反らし、うつむきながら再び終わりの無い涙を流し始める加奈子。


 その涙は混じりっ気無しの澄んた涙だった。


 あたしには分かる......


 それは今の加奈子の澄みきった心が涙となって溢れ出て来てるってことをね。



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