謝罪
「つまりあなたが今日わざわざここへ来た理由は、あたしに謝る為......と言うことで宜しいのでしょうか?」
「そうよ、そうに決まってるじゃない! だってあたし......もうどこにも行く所が無くて。お願い......どうかあたしを許して! それでこの御影村に、あたしをおいて! お願い......お願いだから......うっ、うっ、うっ」
その時、加奈子は間違い無く大粒の涙を流してた。きっとその涙に偽りは無いのだろう。
恐らく......
加奈子はここへやって来る前に、山菱酒造へ立ち寄っていたに違い無い。なぜならそこには、彼女のご両親が居る訳だから。
加奈子が今日ここへ1人でやって来たのは、ご両親の指示だったのか、自身の判断だったのか、それは分からない。
でも結果として、今彼女は誰の助けも無く、たった1人であたしの所へやって来た。そこだけは評価に値するところだと思う。
ふぅ......
あたしがそんな彼女の痛々しい姿を見て、1つ大きなため息をついた。その時だ。
突如、
バタンッ!
いきなり扉が乱暴に開け放たれたのである。一体誰がやって来たのかと思えば、
「加奈子! お前、どの面下げてこの村の敷居跨いでやがんだ! 出てけ! ここにお前の居場所なんて無いぞ!」
「大地君の言う通りよ! あなたの居場所なんて無いんだからね!」
見れば2人は肩で息をしながら顔をタコみたいに真っ赤にしてる。さぞかし怒り心頭だったに違い無い。
そう......そんな2人とはあたしの大の親友、そして御影村復興に最大の力を貸してくれてる2人だった。
「大地君、実菜ちゃん!」
「なんか暗い女が村に入ったって聞いたから、もしやと思ってやって来たんだ。やっぱお前だったか! よくもヌケヌケと......」
見れば大地君は、両の拳を紫色になるまで力強く握り絞めてる。今にも殴り掛かりそうな勢いだ。
いつもはそんなやんちゃな彼を戒める実菜ちゃんも、今日ばかりは役目を完全放棄してる。よっぽと彼女も腹が立ってたに違い無い。
「ご、ごめんなさい......」
一方、加奈子の方はと言えば、ただ顔を青くしてるばかり。2人の目すら見れないらしい。
そんな加奈子の動揺を他所に、あたしは敢えて淡々と話を続けた。
「加奈子......これを持ってあたしと一緒に来て」
「これって......?」
「はい、これ」
今あたしが加奈子に手渡したもの......それは1粒の向日葵の種に他なら無かった。ちょうど加奈子の涙の滴と同じ位の大きさだ。
「種......向日葵の?」
「そうよ」
「分かった......」
「さあ、あたしに付いて来て」
「ええ......」
きっとこの時加奈子は、自分がどこへ連れて行かれるのか? 何わされるのか? 何てことは全く分からなかったと思う。もちろん親友の2人もね。
きっと頭の中は?マークが渦巻いてたに違い無い。その証拠に、
「向日葵は何するつもりなんだ? まさか種と一緒に加奈子を土に埋めちまうとか?」
そんなトンチンカンなことを言い出す始末。 もちろん彼女には聞こえない位の声量で。
「まさか......きっとヒマちゃんに何か考えが有るんだと思うよ」
一方、少しは分かってくれてる実菜ちゃんだった。彼女もヒソヒソ声だ。
「そうなのか?」
「まぁ、あたし達も付いてってみようよ」
そんな流れで、あたし、加奈子、大地君、実菜ちゃんは、お行儀よく一列になって『村長室』を後にして行ったのでした。その場所へと向かって。




