来訪者
復興に向けた努力を村の皆さんが評価してくれた結果なんじゃないのかな。でもそのお陰で、復興が更に早く進んだことも事実だった。発言力に雲泥の差が有るからね。
そんな訳であたしは村長室に居て、今誰かが村長に会いにやって来た......そんな経緯となる。やがて、
ギー、バタン。
「......」
今入室を果たしたばかりの来訪者は、あたしに背を向けて、ゆっくりと扉を閉めた。
真っ黒なショートヘアー、飾りっ気の無い白のブラウスに黒のスカート。あたしと同じ位の年齢たるそんな女史の手は、明らかに震えてる。きっと心身共に、緊張が渦巻いてるんだろう。
そんな女史の姿を見た途端、思わずあたしはため息をついてしまった。
ふぅ......
なぜならそんなモノクロームとも言える装いや雰囲気は、10年前の自分と割符を合わせたかのように一致してたから。
「ど、どうも......」
あたしの目を見ることもせず、足元におぼろ気な視線を向けながら、そんな言葉を並べた彼女の口は明らかに重かった。
「そちらにお掛け下さい」
実は1秒にも満たないそんな僅かな声を聞いただけで、あたしは彼女が誰なのか直ぐに分かってしまった。
10年と言う長い月日が経過し、以前とは明らかに雰囲気もオーラも変わっていたけど、彼女を見紛う訳も無い。
でも敢えてあたしが知らぬ振りをした理由は、まず自分が誰なのか、それで何しにここ来たのかを彼女の口から聞きたかったから。
やがて彼女は用意された椅子に腰掛けると、ゆっくりと顔を上げた。両の手は血が滲む程に握り締められ、視線は未だに覚束ない。
「向日葵......さん」
「はい、あたしは花咲向日葵です。まずあなたはどちら様ですか?」
「山菱......加奈子......です」
「山菱加奈子さんですね。今日はどうされましたか?」
「10年の......刑期を終えて......今......村へ......戻って......来ました」
「そうですか......それで?」
「それでって......え、あ、あの......」
「ですから、何しに来られたのですか?」
恐らく......
もし何も知らずに、この会話を聞く人が居たならば、きっとあたしは何て冷たい話し方をするんろうと、思われたに違い無い。
でもあたしは、自分を弁護するつもりは無い。だって実際そうだと思ってるから。
「向日葵......さん。ご、ごめんなさい! あたし、あなたに何て謝ればいいのか......も、もうほんと、ごめんなさい!」
見れば腰を90度以上に傾けて、なおも身体をブルブル震わせながら、必死に謝ってる。
それはもう、見ていて居たたまれなく程の渾身なる感情表現だったと思う。でもあたしは、なおも態度を変化させることは無かった。




