終焉
下を俯き、人目も憚らず涙を流す悠真君。いつも気丈で弱いところなんか、1度も見せたこと無かった。
でも今あたしの目に映る悠真君は弱々しくて、息でも吹き掛けようものならどこかへ飛んでっちゃいそう。
逆にそんな姿を見ることが出来て、あたしはちょっと嬉しかったりもする。全てを曝け出してくれてありがとう......って感じでね。
そんな中、記者さん達はばつの悪そうな表情を浮かべてあたしに話し掛けて来た。
「自分達はてっきり花咲向日葵さん......あなたが腹いせに火を放ったとばかり思ってました。ほんとにすみません」
「まさか彼女が神社に火を放ってたとは......あなたを疑って散々付きまとってたこと、深くお詫びします」
直立不動の姿勢で、直角に頭を下げる2人だった。
でも別にあたしは恨んで無い。だってそれが彼らの仕事なんだから。
しかも今ここに彼らが警察官を引き連れて来てくれたからこそ、あたしの潔白が証明された訳で、そう考えるとむしろ感謝しなきゃならない。なので、
「いいえ......よく来てくれました。あなた達のお陰で今あたしはようやく、真の花咲向日葵に戻れたような気がします。本当に、ありがとう」
あたしは松明を悠真君に渡し深々と頭を下げた。
気付けば、加奈子も荒くれ者達も警察に連行されて、明石大橋を見渡せるこの公園も日頃の静けさを取り戻してる。
それは今日と言う長い長い1日が、漸く終焉を向かえたことの証だった。
「さぁ向日葵、そろそろ行くとしようか」
「うん」
ブルルンッ......
やがてあたしと悠真君は記者さん達に手を振りながら、修羅場を後にして行く。
「向日葵......全て終わったな」
「いいえ、まだ何も終わって無いわ。むしろ今スタート地点に立ったばかり。きっとこれから忙しくなるよ。悠真君も手伝ってね」
「忙しくなる? 手伝ってくれって? 一体何を?」
「ええ? 分かんないの? まぁ、いいでしょう。何年掛かるか分かんないけど、気の遠くなるような大事な仕事が残ってるの。とにかく協力して貰うから宜しくね」
「何だか分からんけど、向日葵がやりたいことならとことん付き合ってやるよ」
「うん、ありがとう」
「さぁ、突き進もう。俺達の未来へと向かって!」
「ええ、突き進みましょう!」
ブルルンッ、
ガガガガッ......
時刻は23時。
これを持って5年と言う長きに渡る琴音と向日葵の物語も、今漸く終わりを迎えようとしている。
でもそれは向日葵が言ったように、新たなチャレンジの幕開けでもあった。
それは本当に気が遠くなるような、とてもとても長い道程だったのである。
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【向日葵の観察記録】
4月21日(月)12:00
翌日、目が覚めたらもうお昼だった。
横に悠真君が寝てたから、ちょっとびっくりしちゃった。
この記録はしっかりと丁寧に書き残しておきたいから、書き終わるまで悠真君は起こさないでおくことにしよう。
加奈子はあの後、5年前のことを警察に全て話したらしい。あたしの思った通り。
ずっと隠しながら生き続けることが地獄だってことに、彼女もようやく気付いたんだろう。
全てを公にして、しっかりと償うべきことを償ってから、新たな人生を頑張って欲しいとあたしは切に願ってる。
事件を起こした時、加奈子はまだ未成年だったから、しっかりと罪を償えば、ちゃんと社会復帰出来るんじゃないかな。




