結末
そんな悠真君の声も耳には入ってたんだろうけど、あたしの手を止める程の説得力は無かった。血圧が急上昇して今にも倒れそうだったけど、倒れるのはそれをやった後にして欲しい。
「や、止めて......」
すっかり戦意喪失の加奈子に対し、
「止めないわ!」
阿修羅と化したあたし。
そして遂にあたしが飛んでも無い過ちを犯そうとした正にその時だった。
ピカッ!
突然、目の前が真っ白になる。
「そこまでだ。彼女を罰するのは君じゃ無い。彼女が話した5年前の事実は全て俺達の耳が記録した。だからもう心配しなくていい。彼女は法に寄って裁かれる身だ!」
見れば、直ぐ後ろの木陰から一筋のスポットライトが。
どうやら木の後ろに隠れてた人達が、こっちに向かってライトを向けてるらしい。更にその奥にも複数の人影が。
正直、今あたしは何が起こってるのか全く分からなかった。あまりに話が急展開し過ぎて頭がついていかない。
ただ呆気にとられて幸いにも松明を握る手がフリーズしてたことだけは、きっと運が良かったんだろう。
ザッ、ザッ、ザッ......
ザッ、ザッ、ザッ......
やがて彼らがが近寄って来る。そして遂にその顔が露に。
「あ、あなたは......」
思わずあたしは声を上げてしまった。なぜならその顔に見覚えが有ったから。
「よう、久しぶり。と言っても......最後に会ったのは東京の図書館依頼か......」
「き、記者さん?!」
そう......今あたしの目の前で笑みを浮かべている男性は、何度と無く『琴音』の前に現れた記者さんとその助手さん。
更にその後ろに居た複数の人影は間髪入れずに周囲を取り巻いて、
「よし、取り押さえろ!」
逃げ惑う荒くれ者達を次々と取り押さえていった。
「まっ、不味い! 警察だ!」
「煩い、神妙にしろ!」
正に袋のネズミとは、こう言うことを言うんだろう。
「くっそう、放せ!」
必死に抵抗を見せる漢も居れば、
「痛い、痛い!」
泣き叫ぶ漢も居た。
「俺は何も知らない! ただ連れて来さされただけだ!」
また必死に言い逃れする漢も居れば、
「この女が1人でやったことだ!」
罪を加奈子1人に擦り付ける漢も居た。
この状況は正に一網打尽。1人も逃げれずに、次々と逮捕されていったのでした。
そんな中、とにかくあたしは不思議でならなかった。
何で警察の人達が荒くれ者達を捕らえてるのかも分からないし、そもそも何で記者さん達がここに居るのかも全く持って不明。
「一体どうして......」
あたしは目をキョロキョロさせながら、素直にそんなことを記者さんに尋ねてみた。
「ん? どうして僕達がここに居るのか? ってことか?」
その通りだから、あたりはコクりと首を縦に振る。
「なんだ......君は何も知らないんだな。なら教えてやろう。あんたの旦那さんが僕らをここへ導いてくれたんだよ」
旦那さん?
ちょっと聞きなれない言葉だったから、一瞬頭が真っ白になっちゃったけど、誰のことを言ってるのか直ぐに分かった。
えっ?
悠真君?
悠真君が記者さん達をここへ呼んだってこと?
「向日葵......危ない目に遭わせちまってすまなかった。実は記者さん達は俺と加奈子の結婚式に潜り込んでたんだ。東京で何度もトラブってるから一目見て直ぐに分かった。
向日葵も知っての通り、加奈子は誰よりも執念深い性格だ。あの程度のことで引き下がるとは思って無かった。絶対に追い掛けて来るってな......
それで俺のスマホナビを記者さんのスマホに連携させてた。でもまさか加奈子があそこまでやるとはちょっと思って無かったけどさ。
記者さん達がもう少し来るのが遅かったら取り返しが付かんことになってた。俺は守らなきゃならない一番大事な人を危険に晒しちまった。こんなんじゃ、旦那失格だ......」




