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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第7章 向日葵の幸せ
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無駄な交渉

「さっきも言ったでしょう。今日は秋祭りのやり直しなんだって。むしろここからが本当の始まりよ!」


「残念だけど、俺達の秋祭りは今ちょうど終わったところだ。まだやりたいならお前達だけで好きに続けてくれ。さぁ向日葵、冷えて来たな。そろそろ帰るぞ」



 薄ら笑みを浮かべながら突然あたしの手を取り、エスケープを開始する悠真君。電光石火......きっとこの窮地を乗り切る術として、そんなカードを引き当てたに違い無い。


 でも加奈子は、そんなカードに勝る強力なジョーカー達を大勢引き連れて来てることは周知の事実。



「何言ってんだ? 帰れる訳ねぇだろう!」


 気付けば大勢があたし達を取り囲み、いくつもの触手があたし達の身体を押さえ付けてた。そんなジョーカー達から連想される言葉と言ったら、野蛮、凶悪、無法、陰湿......そんなネガティブワードばかり。


 もうやだ......一体どうしたらいいのよ?!


 ガクガクガク......膝が恐怖で震えちゃって、もう立ってるのもやっとだった。


 その一方、  


「加奈子......お前を選らばなかったのはこの俺で向日葵じゃ無い。俺の選択に納得がいかないんなら俺と喧嘩すればいい。そんな訳で部外者の向日葵は直ぐに解放させて貰うぞ」


 あたしを背中の後ろに隠しながら、決死の交渉に打って出る悠真君。でもそんなこと、加奈子が納得する訳が無い。だって彼女が憎いのは、むしろあたしの方なんだから。


 加奈子は女。そしてあたしも女。同じ女だからこそ、それは痛い程に分かることだった。



「悠真君、確かにあなたにはがっかりしたわ。この結婚はあたしとあなただけの問題じゃ無かった。両家の為、それと働いてくれてる社員とその家族達全員の為に必要だったことなの。


 でもあなたはそれをご破産にした。正直言ってそこまであなたが愚かだとは思って無かったわ。もういい......あたしは愚か者なんかと結婚するつもり無いから」


「ハッ、ハッ、ハッ、確かにお前の言う通り俺は愚か者だ。なぜなら一瞬の心の迷いだったとは言え、自分のことしか見えてないお前なんかと結婚を約束しちまったんだからな。ほんとに俺はバカだったぜ。ほう......珍しく意見が合ったな」


「なんですって? あたしが自分のことしか見えてない? よく言うわ、自分のこと棚に上げて......でもまぁいいわ。あなたなんかともう議論するつもりも無いから。とっととあたしの前から消えなさい。それで2度とあたしの前に現れないで!」


 呆れた顔してそんな言葉を吐くと、加奈子は悠真君の身体を押さえ付けてる輩に、チラと目配せした。すると彼らは手の力を緩めて、悠真君の身体は途端に自由を取り戻した。



「向日葵、聞いての通り加奈子はもう俺達に用が無いそうだ。さぁ、行くぞ」


 悠真君がそんなこと言ったって、


「向日葵はダメよ。さぁ悠真君、あなたは早くあたしの前から消えて」


 つまり、無駄だってこと。


「なんだと?」


 一方、敢えて意外な表情を見せる悠真君。彼だってきっと分かってる筈なんだけど。



「向日葵、あんたはどこまで図々しい女なの?! これであたしから悠真君を奪い取ったつもり? 少しは恥を知ったらどうなの?!」


 悠真君からあたしに視線を移した途端、2つの目に猛火を灯す加奈子。そこには、恨み、妬み、怒り......そんな憎悪の感情が全部宿ってたに違いない。



 やがて身動き取れないあたしの元へ一歩一歩近付いて来る加奈子。憎悪に満ちたそんな松明の炎を、あたしの顔へ向けながら......


「残念ね。大人しく地中に潜ってれば良かったのに」


「何するつもり?! や、止めて!」


「もう全て終わり。あたしも、あなたも」


 落ち付いた口調でそんな『破滅』を語る加奈子の顔に迷いは無かった。驚く程に澄んでたことを今でもはっきり覚えてる。



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