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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第7章 向日葵の幸せ
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加奈子

 どうやら嵐は、いつの間にやら方角を変えてくれてたらしい。それはきっとこの舞台の最終幕を彩るが為、神様が嵐を追い払ってくれたからなんだろう。



「向日葵、俺は生涯君を守り続けてみせる。約束するぜ」


「悠真君、あたしも生涯あなたを支え続けます。それがあたしの約束」



 そんな清水の舞台上で、気付けばあたしと悠真君は互いの目を見詰め合ってた。


「向日葵......」


「悠真君......」



 もう誰にも邪魔されない......この時あたしは、間違いなくそんな手応えを感じ取ってたと思う。


 でも今思い返せば、ちょっと天狗になってたような気がする。周りなんか、全然見えて無かったしね。



 やがて彼の手はあたしの肩に優しく触れ、自らの身体へとあたしを引き込んでいった。そしてそんな彼の行動に対し、あたしは彼の厚い胸板へと身体を委ねていく。


 彼の唇が目の前に広がるとあたしの瞳は自然と閉じ、少しばかり踵を上げて彼の唇へと自分の唇を合わせていった。


 ああ......ここがあたしの居場所。


 彼の優しさ、彼の温かさ、そして彼の愛情に包まれたあたしだけの指定席に、今ようやく辿り着けた気がする。


 多分山村琴音と名を変えた5年前から、表舞台より姿を消した向日葵は、この花開く瞬間を夢見ていたに違い無い。


 そして遂にあたしがその黄色く大きな力強い花を咲かせようとした正にその時のことだった。


 なんと! 再びこの地へ舞い戻って来てしまった。巨大な嵐が......



「この......泥棒ネコが!」


 それはとてつも無く強力で、そして神すら恐れる程の邪悪に満ちたものだった。



「「だ、だれ?!」」


 その声を聞いた途端、全身の血が凍り付き100ボルトの電流が足の指先まで行き渡る。


 振り返るのが恐かった。でも振り返えらなきゃ誰が来たのか分からない。だから、振り返るしか無かった。


 でも、薄々分かってる。なぜならあたしはその声に、聞き覚えが有ったから。


 彼女? 彼女?! 彼女!!!


 ドクン、ドクン、ドクン......


 心臓の鼓動が激しく波打つ。そしてあたしの首は潜望鏡となり、ゆっくりと後ろへ回転を始めた。


 ギー......カシャン。


 やがてモニターに映し出されたその者の姿はと言うと......


 予想に違わず、


 最恐、最悪の


 悪魔だった。



「かっ、加・奈・子!」


 今あたしの目の前に映るその姿は、加奈子であって加奈子に有らず。


 目はつり上がり、顔は歪み切り、そして力強く握られた2つの拳は、感電したかのようにブルブルと震えてる。


 そんな姿を目の当たりにしたあたしは、まるで巨大蛇に睨まれたカエル。迫り来る恐怖に翻弄され、口から泡を吹き出す程に気が動転した。


 それは正に、自らが作り上げた偶像と言う名の天国から、現実と言う名の地獄へ引き摺り下ろされた瞬間だったに違い無い。


 気付けば嵐の到来と歩調を合わせるかのように、いつの間にやら星もその姿を見せなくなってる。


 そんな中、今あたし達を照らし出す光が有ったとしたならば、それはオレンジ色に輝く無数のそれだけだった。


「た、松明!」


「い、いつの間に......」



 あたし達を取り囲むそんな松明の数はなんと、10を遥かに超えてた。つまり加奈子はそれだけの人数をここへ引き連れて来てるってことになる。


 それは正に、5年前の再現ドラマ。割符を合わせたかのようにキャストが一致してる。


 そうともなれば、否が応にもその時体験した恐怖がフラッシュバックを始めてしまう。


 ところがそんなあたしの慟哭を他所に、


「加奈子......大勢引き連れて一体何しに来たんだ? まさか俺達の門出を祝いに来てくれた訳でもねぇんだろ? ハッ、ハッ、ハッ。でもまぁ、この短時間でよくそれだけの人数を集めたもんだ。全く感心するぜ」


 気持ちだけは負けまいと、余裕の表情で啖呵を切る悠真君だった。


 でも心の中では、言い知れぬ恐怖を感じてたに違い無い。だってあたしなんかよりずっと、加奈子の恐ろしさを知ってる筈なんだから。



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