明石海峡大橋
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その一方......悠真と向日葵が去った後、残された面々はどうなってたかと言うと、
「よし、バイクを追い掛けるぞ!」
「了解!」
記者は直ぐに後へと続いて行く。とことん追い詰めていくらしい。
そしてもう1人。大勢の前で顔に泥を塗られた新婦はと言うと、
トゥルルル......カシャ。
「バイクのナンバーは今伝えた通りよ。国道を神戸方面に向かったわ。とにかく直ぐに人を集めて。そうね......お金はいくらでも払うから人を殺せる人を呼んで。ええ、頼んだわよ。あたしも直ぐに向かうから」
どうやら......こんなこと程度で泣き寝入りするつもりは無かったらしい。
ちなみに加奈子は、式が始まる前にこんなことを悠真に囁いていた。
『悠真君、これがあたしに取っての本当の秋祭り。5年前のやり直しよ』
思い出して頂けただろうか?
そして今もなお、5年前と全く同じシナリオで物語が進んでいることを忘れてはならない。
向日葵と悠真の身に、今やそんな最大の危険が迫ってることを果たして本人達は、分かっているのだろうか? 2人だけの愛の世界に溺れていないことを、ただ祈るばかりだ......
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明石海峡大橋
それは兵庫県神戸市と淡路島の間の明石海峡に架かる橋長3,911m、中央支間長1,991mの世界最大級とも言えるつり橋。
そんな巨大つり橋は、多彩なパターンで真珠を連ねたようなライトアップが楽しめることから、別名『パールブリッジ』とも呼ばれている。
毎時0分には虹色に、そして毎時30分には宝石色に、などなど......多彩なパターンが駆使された全国でも有数な観光スポットであることは、多くの人が知るところだ。
そして21時。そんな時間ともなれば、
「わぁ、きれい......橋に虹が掛かってる」
当然の如く、そこにカップルでも居ようものなら、乙女からは歓喜の声が湧く訳である。
「凄いだろ。いつか絶対連れて来てやろうって思ってたんだぜ。まぁ、5年前からなんだけどな」
「5年前? そっか......そうだよね」
そんな明石海峡大橋全体を見渡せる県立公園に、今バイクで辿り着いたばかりのカップルは少し疲れ顔。ここへやって来る前に、何か騒動でも有ったのだろうか?
「それはそうと、ちょっと腹減って来たな。確か入れといた筈なんだが......おお、あったあった」
バイクのサイドバッグから何やら取り出した若者は、にこやかな笑顔を浮かべて一言。
「食べようぜ」
「うん......」
そして疲れた表情を打ち消すかのように、乙女もまた嬉しそうな笑顔を浮かべてる。
若者が満を持して取り出したもの......それはなんと、縁日の王様とも言える『たこ焼き』だったようだ。
たこ焼きと言えば、とにかくアツアツ。フーフーしながら食べるのが定番ではあるのだが、若者の手に持たれたそれはすっかり冷めてた。しかもプラスチックケースの中で片寄ってぺしゃんこだ。
そんな型崩れした『たこ焼き』を浴衣姿で大事そうに食べる2人に取っては、正にこの時間こそが真の秋祭り。
ようやく掴み掛けた幸せを満喫する最も大事な時間だったに違い無い。
因みにそんな2人とは、
「向日葵、すっかり冷めちまったけどホテルの縁日で買っといた『たこ焼き』だ。まぁこれで我慢してくれよな」
「ううん、美味しいよ。ありがとう、悠真君」
どうやら、この2人で間違い無いらしい。
悠真の父の手引きでバイクに乗って逃げて来たは良かったが、正直2人には行く所が無かった。
加奈子の執念は2人のよく知るところ。迂闊に悠真の家などへ帰ろうものなら、直ぐに乗り込んで来ることくらいは容易に想像出来ることだ。
まずは静かな所で、一旦は落ち着きたい......きっと悠真のそんな意図が有って辿り着いた場所が、この明石海峡大橋が間近に見える公園だったのだろう。




