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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第1章 向日葵のはじまり
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リリーとゴロー

 目の前には5メートル四方、腰高程度の柵が張り巡らされてる。そんな柵の内側では、あたしの到来に気付いた2匹のヤギが柵の上から顔を出して大きな口を開けてた。


 ちなみにリリーはメスで、ゴローはオス。2匹共に今年で2才になるの。ヤギの2才は人間で言うと20才位らしいから、きっと今が食べ盛りなんだと思うよ。


「お腹空いたでしょう。ちょっと待ってね」


 あたしは紙袋から干し草を取り出すと、手渡しで2匹の口の前に差し出した。


 そんな干し草も、全部あたし達の手作り。田舎だから草はいくらでも生えてるんだけど、それを刈って乾かすのが一苦労なんだわ。


 まずは、道端に広げて1日。そんでもって今度は、全部ひっくり返してもう1日。


 晴れの日が続けばいいんだけど、雨の日を挟んじゃうと一旦しまってからもう1日とかになっちゃうわけ。


 更に冬場は草が生えて来ないから、今から一冬分の干し草をせっせと作り溜めてる次第。結構大変でしょう?



「ほら喧嘩しないで。いっぱい有るからね」


 そんなあたし達の苦労も知らずに、リリーとゴローは豪快に、ムシャ、ムシャ、ムシャ......次から次へと干し草を喉に流し込んでいく。


 もうちょっと味わって食べて欲しいと思うのは、あたしだけだろうか?



 するとまた何やら後ろから、


「なんだ......大きな紙袋持ってどこ行くのかと思ったら、こんな所に来てたのか」


 ここまで徹底して無視してると、今更反応するタイミングも掴めなかった。なので今回も慣例に従って、


「......」 


 無視。


 でもさすがにちょっと心が痛んで来たりもしてた。一応あたしも心を持った人間なもんで。だから『彼は透明人間なのよ!』って思うことにしたの。ものは考えようってことね。



 やがてリリーとゴローが全ての干し草を食べ尽くすと、今度はお掃除が待ってる。


 至る所に散らばってるチョコボールを、全部掃かなきゃだわ。


 ちなみに繊維物質ばっか食べてるから、チョコボールの量はやたらと多い。でも乾燥してるし、臭いも殆んど無いから、そんなに苦労するような作業でも無かった。


 そんなこんなで......


 あたしは柵に掛けてある竹箒を手に取ると、手際よくそれを塵取りの中へと運んでいく。もう慣れっこよ。


 その間も、2匹は箒を噛んだりあたしの手に頬擦りしたり......とにかく構って欲しいオーラをふんだんに撒き散らしてくるの。


「はい、リリーだめよ」


「はい、ゴロー少し大人しくしててね」


 するとそんなあたしの様子を見てた透明人間? がのこのこと、柵の中に入って来た。


「よし、楽勝そうだな。俺もやってみるとしよう」


 その言葉の通り、楽勝だと思ったんだろう。


 そんな訳で柵にぶら下げられてたもう一対の竹箒と塵取りを手に取ると、果敢にも柵の中へ突撃を開始していく。


 でもあたしは彼が透明人間な訳だから、そんな行動に気付かないんだけど、リリーとゴローは透明人間の姿が見えるらしい。


「メェ!!!」


「メェ!!!」


 同じ鳴き声でも、あたしの時とは明らかに様子が違う。声も大きく、更にダミ声だ。


 余談かも知れないけど、ヤギの鳴き声は『メェ~』が長いとおねだり。『メェ!』が短いと怒ってるらしい。


 今は『メェ』が超短かったから、きっと超怒ってるんだろう。



「おっと、すげ~勢いで近付いて来たぞ。マジか?! ちょっと止めろ! 噛むな! 痛いって!」


 見れば2匹は目を吊り上げて、見えぬその人のお尻にガブリと噛み付いてる。きっとヤギにも、好き嫌いが有るんだろうね。


「ダメだ。ギブアップだ!」


 這う這うの体で柵の外へとエスケープ。噛まれた尻辺りのズボンが破けてる。


「こいつら猛獣だな」


 透明人間が呆れ顔で柵の外から2匹を眺めてると、


「ちょっとこれ持ってて下さい」


 どうやら......あたしにもその人の姿が見えるようになったらしい。もしかしたら......そんな彼の四苦八苦に少しは好感を持てたのかも? なんて。



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