その結婚 ちょっと待った!
なんと!
次の瞬間、遂に天から神が君臨した。
「なっ、なんだ?!」
「なんか空から降って来たぞ!」
「やっぱトムクルーズか?!」
「んなバカな!」
そして、
バッシャーン!
ゴボゴボゴボ......
「「「うわぁ!」」」
正直......
この時この瞬間、何が起こったのかを瞬時に理解した人は皆無だったと思う。
とにかく物凄い爆音と、台風並みの風が取り巻いたと思えば、次の瞬間には目が眩む程の光に包み込まれ、その直後には参列者全員が水浸し。
きっとナイアガラの滝底にでも潜ってみれば、同じような体験が出来るんだろう。
あまりに突然過ぎて、俺を含め誰1人として声を発する者は居い。
ちなみに、加奈子は俺の横で目をぱちくりさせてる。つまりこれはサブライズ演出じゃ無いってことだ。
そんな中......
やがて従業員の1人が、恐る恐る池へと近付いて行った。すると、
「へ、ヘリコプターが墜落したぞ!」
突然そんな大声を張り上げやがった。きっと水面の直ぐ下にプロペラでも見えたんだろう。
「だったら中に人が乗ってるんじゃ無いのか?!」
「たっ、大変だ! 誰か救急車を呼んでくれ! それと、消防と警察も!」
ザワザワザワ......
俄にざわめき立つ300人。気付けば大パニックが始まってる。
とにもかくにも俺の願いがお地蔵様に通じたことには感謝しか無い。もう結婚式どころの話じゃ無くなってるもんな。きっと明日の朝刊1面トップは、これで間違い無しだ。
一方、そんな300人の中の1人。とある中年男性はと言うと、明らかに他とはリアクションが異なっていた。何やら不敵な笑みを浮かべてる。
「よしよし、やっぱ潜り込んどいて正解だったな。大火災の主人公の結婚式ともなりゃ、きっと何かが起こるって思ってたんだ。しっかり写真撮っとけ。これは大スクープになるぞ!」
どうやら......
山村琴音に5年間付きまとってた記者も、この結婚式に参列してたらしい。鼻が効くとしか言いようが無い。
ところが、そんな記者を喜ばせる物語はこれだけで終わらなかったのである。
「お、おい! 何か池の中から出て来るぞ!」
「魚か? 魚人か? い、いや、人だ!」
「自力でヘリから出て来たのか? しかも2人居るぞ!」
やがて池の底から上がって来た人の形をしたそんな2つの物体は、
ビチャ、ピチャ、ピチャ......
ピチャ、ピチャ、ピチャ......
フラフラした足取りで、上陸を開始したのである。
「待てよ......こいつ、まさか......」
まずそんな姿を視界に捉えて、真っ先に反応を示したのは他でも無い。記者だった。
そんな記者達大勢が見守る中、今池から出て来たばかりの1人は、ワカメのような濡れた髪の毛を一気に託し上げる。それは正に、決定的瞬間だった。
「やっぱ、そうだったか!」
きっと記者の思い描いた通りの顔が現れたんだろう。武者震いが止まらぬそんな様子を見てれば、それは明らかだった。
一方、今池から出て来たばかりのその者はと言うと、固唾を飲む群衆の前で遂にその口を開いた。
「あたしは......花咲向日葵。その結婚......ちょっと......待って......うっ」
どうやら、そこまで言うのが精一杯だったらしい。
目立った外傷は見受けられないが、着水の衝撃は計り知れないものが有る。しかも1分近くは水中でうごめいてた訳だから、エラが無い以上は呼吸も出来なかったに違いない。
遂には力尽き、そして、フラフラフラ......倒れ掛けたその時のこと。
バサッ!
突如群衆をかき分け、その者の身体を間一髪支えた者が居る。そして一言。
「向日葵、安心しろ。まだ指輪は交わしちゃいないぜ。よく来てくれたな」
するとそんな優しい声に気付いた倒れ人の顔色は、一気に血色を取り戻したのである。
「ああ、良かった......」
更にその者も助け人の目を見詰め、そんな一言を返す。
「さぁ、行こう!」




