命懸け
多分、賢也がまだ天国へ行けて無い理由も、きっとあたしが賢也に気兼ねして、自らが幸せになることを拒絶してるからなんだろう。
きっと今も中々決心を固めないあたしをどこかで見てて、イライラしてるに違いない。
もちろんあたしだって、今直ぐにでも悠真君の結婚式会場に飛び込んでって、どこかの映画みたいに『その結婚ちょっと待った!』をやりたい。それが賢也の願いであるならば、尚更だ。
でも今となっては、もう手遅れ。だって1時間半後には、ここから遠く離れた大阪で悠真君は結婚式を挙げちゃうんだから......もうどう考えたって諦めるしか無いこと。
賢也......あなたの願い事を叶えてあげられなくて、ごめんね。
あたしが天を仰いで、亡き弟に頭を下げたその時だった。
「お前が幸せにならなくて、賢也君が喜ぶと思うか?」
「ヒマちゃん......あなたが幸せを諦めちゃったらお父さんもお母さんも賢也君も悲しむよ。このままでいいの?」
大地君と実菜ちゃんが、そんな有難い言葉を掛けてくれた。更に、
「向日葵、お前悠真のことが今でも好きなんだろ? お前の幸せは悠真と一緒になることなんじゃ無いのか?!」
「きっとご家族の皆さんも悠真さんも、それを望んでると思うよ!」
そんな言葉までも掛けてくれた。でもそんなことはあたしだって分かってる。でもどう考えたって、無理なものは無理なんだから!
「そんなこと言ったって、あと1時間半後に大阪で結婚しちゃうんだよ! どうやってあたしが結婚を阻止するって言うのよ?!」
正直大人げないことは分かってた。でもどこまで行っても八方塞がりなこの状況に、頭がパンクしちゃってたんだと思う。大恩人の2人についつい声を荒げてしまった自分が、本当に嫌で嫌で堪らない。
すると、そんなあたしの暴言に対して、驚く程に冷静な大地君が、冷静にこんなことを聞いて来た。
「向日葵......今『式』を阻止するって言ってたみたいけど、その『式』ってまさか悠真の結婚式のことを言ってるのか?」
そんなの当たり前!
なのであたしは無言でコクりと頷いた。
「つまりそれって、悠真の結婚式に乱入して『ちょっと待った!』って叫ぶつもりなのか?」
正直それも展開に寄っては有り得る話。そんな勇気が有るかは分からないけどね......なので今度もコクりと頷いた。
「でも結婚式は6時半からで、今もう5時なんだから、どうやったって間に合わないじゃん!」
気付けば実菜ちゃんも顔を紅潮させてる。興奮してるのは、あたしだけじゃ無かったみたい。
「向日葵! お前覚悟は有るんだな? 仮に時間前に着いたとして、やっぱ止めたとかは絶対無いんだな?!」
あたしは三度コクりと頷いた。だってその通りだから。
「ダメだ、そんなんじゃ! ちゃんと口に出して言え! あたしは悠真君と結婚する! その為には命を掛けるって言え!」
一体大地君が何でそんなに興奮してるのかは分からなかったけど、あたしも絶望的なこの状況にストレスが溜まってたから、勢いに任せて言ってやった。しかも腹からの大声で。
「あたしは両親の為にも賢也の為にも自分の為にも悠真君と結婚して幸せになる! その為だったら命でも何でも掛けてやる! ハァ、ハァ、ハァ......」
5年間大声を出したことが無かったから、命を掛ける前に酸欠で死にそうになってしまった。でもそんなあたしの魂の叫びに、大地君も遂に覚悟を決めてくれたらしい。
「よし、心得た! ならば、行くぞ!」
「行くぞって......一体どうやって?」
「いいから任せとけって! 俺を信じろ!」
「2人共頑張れ!」
※ ※ ※ ※ ※ ※
そんなこんなで......
バサバサバサッ! とにかくそれは物凄い風と音だった。
この時、時刻は5:10分。悠真君の結婚式が始まる1時間20分前のこと。
「大地君......確かまだ免許取れて無いって......言ってたよね?」
「それがどうした? 俺はこの村の人達が困った時、それを助ける為に今日までしっかりメンテナンスして来てたんだ。向日葵は村民だろ? それで今困ってるんじゃ無いのか?」
「いやぁ確かにあたしは御影村の人間だし、今史上最強に困ってるよ。でも、そう言う問題じゃ無くて......」




