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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第1章 向日葵のはじまり
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ニ礼ニ拍手

 やがてそんな畑地帯を抜け切ると、今度は蹴り飛ばした小砂利の向こうに真っ赤な鳥居が見えて来る。


 村の最奥に位置する御影神社みかげじんじゃの登場!


 3日後に控えた秋祭りに備えて、今年は鳥居の赤ペンキを塗り直したらしい。村役場に勤めてるお母さんから聞いたんだけど、予算は村と神社で折半したみたい。


 きっと30回目を向かえる一大イベントに、村も神社も気合いが入ってるんだろうね。


 そんなテカテカに光った赤色鳥居を潜り抜けると、その先の参道は緩やかな上り坂。畦道が打って変わって、見事な石畳に襷を渡してる。


 秋祭り当日になると、等間隔に松明が掲げられて、実に神秘的な世界へと変貌を遂げてくれる。


 あたしはそんな参道が大好き。屋台もいっぱい軒を連ねて、凄い賑わいになるんだから。



 そう言えば......あと3日で秋祭りだわ。また今年も大勢人が来るんだろうな。ほんともう、今から楽しみ!


 そんな浮かれた気持ちとは裏腹に、参道を走り進むあたしの足はいつの間にやら鉛の棒。ちょっと頑張って走り過ぎたみたい。


 ゼェ、ゼェ、ゼェ......足を引き摺りながらも、虫の息とまではいかない程度の息で何とか参道を登り切るあたし。


 するとそこには、由緒有る立派な本堂が。


 平安時代の後期によく用いられた『権現造り』って様式らしいんだけど、有名な日光東照宮もその造りで、後に多く用いられるようになったそうな。


 日光東照宮みたいな三原色をちりばめた鮮やかさは無いけど、モノトーンでひなびた雰囲気がこの御影神社の歴史を強く感じさせてくれる。


 おばあちゃんがまだ生きてる時に聞いた話だと、この神社の歴史は遥か昔、戦国時代にまで遡るらしい。


 当時起きた合戦において、裏のお地蔵様が落武者さん達を呼び寄せて、隣接する3村の村人達が境内の中で大事に匿ったと言う。


 御影、寂蓮、陰徳と言う3村の名前も、そんな歴史にちなんで名前が付けられたらしいの。


 今この3村で暮らす人達も、そんな武者達の血を引き継いだ人が結構多いって噂よ。


 もしかしたら、あたしもそんな血を引き継いでる1人なのかも知れないな。まぁ、詳しいことは分からないけどね......



 そんな歴史ある神社の境内までやって来ると、ご先祖様達の顔を頭に浮かべながら、


 まずは、2礼2拍手。


 パンパン......


「いつも村を守ってくれて有り難うございます。これからも、花咲家、及び村の人達が平穏で暮らせますように」


 神様に感謝、ご先祖様に感謝、自然の恵みに感謝、それと人との出逢いにも感謝ってとこかな。


 まぁこんな流れは、あたしがこの神社にやって来た時のルーティンみたいなものなのね。



 すると、パンパン......


「どうか向日葵と仲良くなれますように。神様、頼んだぜ」


 なんだか分からないけど、まるで歴史を感じさせない誰かが、あたしに続いてお参りしてるみたい。


 でも敢えてあたしは、それを無視することにした。なぜならあたしはその人に対し、昨日の時点で『見ざる聞かざる言わざる』になることを決めてたんだから。


「......」



 そんな経緯で、3種のサルに変貌を遂げたあたしが境内の裏へと回って行くと、今度は立派なお地蔵様が今日もにこやかにあたしを迎え入れてくれる。


 話によると、このお地蔵様は日本でも有数のパワースポットらしいの。人と人とのご縁を結び付ける御利益も有るって聞くわ。


 昔村人達がここへ落武者さん達を呼び寄せたのも、きっとそんな御利益有ってのことなんだろう。


 そして、パンパン......ここでも二礼二拍手。


「いつも村を守ってくれて有り難うございます。これからも、いい人達との出逢いが有りますように」


 すると今度も、パンパン......


「どうか向日葵が俺と口を聞いてくれますように。お地蔵さん、頼んだぜ」


 それでもあたしは無言? なのかと思いきや、今度はなんと口を開いたのでした。話し掛けた相手は違うんだけどね。



「リリー、ゴロー、お待たせ!」


「メェ~」


「メェ~」



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