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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第6章 琴音と御影村
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待って!

 やがてお父さんが言ってた角を曲がり切ると、リリーとゴローが居るのかと思いきや......そこに有ったものと言えば、


「なんだこりゃ?」


 ただ石が積み上げられただけの『記念碑』? みたいなものが複数ゴロゴロと。


 それは一体何かと思って足早に近付いてみると、手前の台座には既に燃え尽きた線香が黒くなって固まってる。


 周りを見渡しても、いわゆる『柵』何かも見当たらなかった。


 もしここに羊が居るとしたら、


 まさか放し飼い? 


 そりゃあ無いだろう。昨日写真で見た2匹はちゃんと柵の中に居たし。


 そんな訳で、あたしがどうしていいかも分からずに、ただ目だけをキョロキョロさせてると、


「メェー!」


「メェー!」


 突然、記念碑らしきものの後ろから、そんな声が轟いて来た。


 あたしがびっくりして、後ろへ顔を出してみると、そこには何と羊が2匹。何やらゴソゴソと動いてる。



「もしかして......リリー? ゴロー?」


 あたしが思わずそんな声を上げると、


「メェー!」


「メェー!」


 2匹の羊は直ぐに、「そうだよ!」って返事してくれた。(雰囲気でそう言ったように思っただけなんだけどね)


 見ればあたしの手に持つ干し草をムシャムシャ食べてる。きっとお腹を空かしてたんだろう。



 それにしてもちょっと不思議だった。どこを見渡しても辺りに柵は設置されて無いし、首輪に鎖なんかも付いて無い。


 お父さんの話だと、5年前から既にあたし達が世話してた訳だから、今更野性に戻ってる何てことも考えられない。


 そんな不思議な2匹が干し草を見事に平らげると、ここで事態は急転直下を見せることとなる。



 時刻はちょうど16時半。


 辺りが薄暗くなり始めてた正にその時のことだった。


 なんと! あたしがちょっと目を離した隙に、


「メェー!」


「メェー!」


 バタバタバタッ!


 突然2匹は明後日の方角へ走り出してしまったのである。



「ちょ、ちょっと待って!」


 すると突然スイッチが入ったあたしの足も、脳が走れと命令するよりも早く第一歩を踏み出してた。


 とは言っても、今日もあたしはピンクの浴衣姿に草履。足を広げて豪快に走ることなんて出来る訳も無かった。


 でも今はそんな泣き事言ってる場合じゃ無い。5年前のあたしが一生懸命世話したそんな2匹を、熊の餌にさせる訳にはいかなかった。


 そしてあたしは、どこへ向かってるのかも分からない2匹の姿を追って、とにかく走ってたのでした。



 こうなるともう、2匹の命運も全てはあたし次第。責任重大ってことになるんだけど......


 ちなみに、人の気配が一切無い畦道をただがむしゃらに走り続ける4足歩行の2匹。それに対してあたしは、知らぬ道をただ追い続ける2足歩行。


 生物学的に言っても、付いて行ける訳が無かった。気付けば、10メートル、20メートル、30メートル......その差は開くばかり。



「リリー、ゴロー! 待って......待ってってば! ハァ、ハァ、ハァ......」


 そんな大声を発したところで、2匹は見向きもしてくれない。


 やがて畦道のカーブに差し掛かったところで、遂に見えなくなってしまった。


 心臓はディーゼルエンジンのようにカラカラ音を立ててるし、吹き出す汗は地面に小さな池を作り始めてる。


 多分、気力も体力も限界に来てたんだろう。



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