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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第6章 琴音と御影村
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干し草

 あたしは自己嫌悪に陥りながらも、味噌汁のパックを開けてお椀に落として、ジャー......お湯を注いだ。それで、パクパクパク......


 昨日あんなに食べたのに、なぜかやたらとお腹が空いてたから、あたしは一気に食べ干してしまった。ちなみにおにぎりの中味は、梅干しとおかか。


 美味しい......


 なんか、とっても素朴で懐かしい味がした。都会で食べるおにぎりとは全く違う感じがする。やっぱ田舎の新鮮な水と米と空気で作ったおにぎりは格別だわ。



 よくよく見てみれば、更にテーブルの上に1枚のメモ書きが。


『畑仕事に行って来るからゆっくりしててくれ。夕方には帰る。父より』


 そんなのを見ちゃったあたしは、更に居たたまれなくなってしまった。


 あたしはお父さんの客人じゃ無くて、血を分けた娘。夕方までゆっくりしてろと言われてもそんなの無理な話。


 自分の記憶を取り戻すことも大事だけど、今はまずお父さんの為に何かしておかないと......


 そんな思いに駆られながら、何か仕事は無いかと詮索を開始。


 すると床には埃が溜まってるし、電気の笠にはクモの巣がたかってるし、冷蔵庫の中には期限切れの食材がゴロゴロゴロ......



 よし! お父さんが帰って来るまでに家の中片付けとこう!


 あたしは突然スイッチが入ったかのように、いそいそと動き始めたのでした。


 お父さんからしてみれば、ありがた迷惑かも知れないけど、とにかく何かしてなきゃ気が済まない自分がそこに居た。多分こう言うのを自己満足って言うんだろうけどね。


 まずは掃除機かけて、はたきでクモの巣処理して、溜まってた食器を全部洗って、洗濯してから庭に干して、冷蔵庫の中身整理して......


 それでもまだ時間が余ってたから、庭の雑草抜いて、玄関扉拭いて、表札拭いて......



 そんなこんなで、16時を向かえたその頃。


 カー、カー、カー......カラスが家族揃って巣へ帰り始めたのを待ってたかのように、


「おう、一旦戻ったぞ」


 お父さんが帰って来てくれた。


「お帰り!」


 あたしは額に浮かんだ汗を拭いながら、笑顔でそんな声を返すと、


「さぁ、お前も一緒に行くぞ」


 見ればお父さんの両手には干し草が。畑仕事で疲れた複雑な笑顔だったけど、目はきれいに輝いてる。


 そんな目を見たあたしは、きっとこの後いいことが待ち受けてるんじゃ無いのかな? 何て期待大のあたしだった。



「行くって、どこへ行くの?」


「まぁ、来れば分かる。さぁ、行くぞ」


「わ、分かった......」


 ちょっと半信半疑だったけど、もしや? とは思ってた。だって干し草持って行く場所って言ったら、大体想像は付くからね。


 きっとあたしをリリーとゴローの所へ連れてってくれるんじゃ無いのかな? なんて感じで。


 でも手に持ってる干し草は、ほんの一握りだった。2匹も居るのにそれで足りるの? 何て思ったりもしたけど、きっと最近の羊は少食なんだろう。



 そんな訳で、テクテクテク......歩くこと20分。


 都会でそれだけ歩くと結構疲れるけど、田舎の畦道はどう言う訳か全然疲れなかった。


 景色はきれいだし、空気は美味しいし、アスファルトと違って土は足に負担が掛からないし。とにもかくにも昨日ゆっくり休んだから、きっと身体が元気だったんだろう。



 するとお父さんが突然立ち止まって、


「おっと、しまった......マッチ忘れて来たからお前先に行っててくれ。直ぐに追い付くからさ。あの角を曲がれば、そこにリリーとゴローが居るぞ」


 あたしに干し草を手渡しながらそんな言葉を残して、スタスタと元来た道をあっさりと戻ってしまったのでした。


 何でマッチが必要なのかは分からないけど、ここまで来て戻るくらいだから、きっとそれが必需品なんだろう。


 まぁ、でも先に行けって言うから......あたしは気を取り直して回れ右すると、再び歩き始めることにした。


 テクテクテク......



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