再会
でも今あたしが気になったのはそんなことじゃ無い。罪滅ぼし......お父さんの口からポロっと出たそんな言葉だった。
この村へ来る途中、あたしは大地君に『5年前あたしは一体何をやらかしたの?!』って聞いた。するとその時、大地君はお父さんに聞けって言ってた。
そのタイミングが今であることを、瞬時に察知するあたしだったのである。
「お父さん、5年前あたしは一体何をやらかしたって言うの?! 教えて! それを知らないと、あたし先に進め無い......聞くのが恐くて恐くて仕方無いけど、あたしにはそれを知る義務が有る。うっ、うっ、うっ......」
それは正に魂の叫びだったと思う。知らず知らずのうちに目からは大量の涙が溢れて来て、せっかくの浴衣が涙で湿る程だった。
そんなあたしの鬼気迫る訴えを目の当たりにしたお父さんはようやく重い口を開いてくれた。きっとお父さんも語るに勇気がいるんだろう。
「あれは......事故だった。あの事故のお陰で、俺もお前も母さんも大事な家族を失っちまった」
「あたしの弟......賢也君......のことね」
「ああ......そうだ。俺はそのことが5年が経った今でも受け入れられなくてな。
賢也には悪いんだが、元々賢也なんて子は居なかったって思うようにして何とか今日まで生き延びて来てる。
全く情けない親父だよ。賢也が生きてたら顔向け出来んわ......」
お父さんはそこまで語ると、日本酒を一気に飲み干した。顎から垂れ落ちる滴は、溢れた日本酒なのか両目から流れ落ちる涙なのか、それはどっちか分からなかった。
「お父さん、今日は飲み明かそう。あたしも付き合うよ。実はあたし、結構強いんだよ」
あたしは日本酒のボトルを持つと、なおもお父さんの手に握られたコップにトクトクとお酒を注いでやった。
それが終わると、今度はグラスに残った酒をあたしが一気に飲み干す。
「さすが酒造会社で働いてた俺の娘だな。そうこなくちゃいかん!」
「あたしいくら飲んでも全然酔わないから。お父さん潰れないでね。あたし介抱しないよ」
「バカ言え! お前なんぞにゃ負けんわい!」
正直......まだ聞きたいことは山程有った。でも今は打ちしだかれてるお父さんを元気付けてあげるのが娘の仕事だと思った。
続きはまた明日ゆっくり聞こう......そう決心したあたしが、新たなグラスを一気に空にしたその時のこと。
ガラガラガラ......突如玄関の引き戸が開かれたと思えば、
「お晩で~す! 向日葵目覚ましましたか?」
「花咲さん、お久し振りで~す」
何と、年若き夫婦が両手に酒やら肴を持って元気な笑顔を浮かべてる姿が。そんな2人の顔を見た途端、あたしの目に浮かぶ涙は一気に蒸発してしまった。
「大地君! そ、そ、それと、あなたはもしかして......」
「ヒマちゃん、会いたかったよ! 凄い久し振りだね!」
「み、実菜ちゃん......なの?!」
「またクレープ一緒に食べに行けるね!」
あたしはグラスをひっくり返したことすら気付かずに、いつの間にやら実菜ちゃんに抱き付いてた。
「うっ、うっ、うっ、実菜ちゃん、あたし......会いたかった!」
迷惑なことに、またしてもあたしの両目から流れ落ちた涙の濁流は、実菜ちゃんの肩に大洪水を起こしてる。
正直......
まだあたしの記憶の中に、彼女の記憶は戻って無い。でも彼女の声は鼓膜が覚えてたし、彼女の匂いは鼻が覚えてたし、抱きついた彼女のふくよかな肉感は、あたしの身体全体が覚えてたんだと思う。
間違い無い......彼女はあたしの親友の実菜ちゃんだ。
この時、あたしの脳から再びゴソゴソと音が聞こえたことは、今でもはっきり覚えてる。




