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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第6章 琴音と御影村
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写真

 やがてお父さんは、ダンボールの中から古いアルバムを出して来ると、


「これがお前の生まれて直ぐの写真だ。玉のような可愛い赤ん坊だったんだぞ。この時は母さんも若かったな。それでこれが......」


 1ページ、そしてまた1ページ......お父さんはあたしの知らないあたしの歴史を丁寧に説明してくれた。


 お母さんの写真が出て来る度に、涙を溢すお父さんの姿がとても印象的だった。


 きっとお父さんは、あたしもお母さんも本当に愛してたんだろう。言葉では語らなくても、写真を見詰めるその表情を見れば、そんなこと一目瞭然だった。


 ただここであたしは、1つだけどうしても理解出来ないことが有った。なので、単刀直入に聞いてみることにした。



「何でお父さんは......あたしとお母さんだけを東京に行かせて......自分はここに1人残って......お酒ばっか飲んでるの?」


 今思い返してみれば、よくそんなこと聞けたと思う。やっぱこの時のあたしは、まだまだ正常じゃ無かったんだと思う。



「確かに酷い父親だと思うよ。でも一家の主として、俺だけは村を出る訳にいかなかったんだ。お前もこの先、子供が出来たら分かることだろうよ」


 子供......そう言えば、あのことも聞いておかなくちゃ! 


 そんな1つのキーワードで、あたしは大事なことを思い出してしまった。


 さっきからずっとアルバムを見てるけど、出て来るのはお父さんとお母さん、それとあたしの3人だけ。表札に有ったもう1人の写真が一向に出て来ない。



「お父さん、賢也君の写真が......1枚も無いんだけど」


「そんな奴はうちにはおらん。俺と母さんの子供はお前1人だ。そんなことよりこの写真見てみろ。御影神社の秋祭りの写真だ。お前はこの祭りが好きて毎年必ず行ってたんだ。


 今着てる浴衣も最後の祭りに着てったやつなんだぞ。写真見ても全然思い出さないのか? ほらよく見てみろって」


 そんな感じで、あっさり流されてしまった。理由は分からないけど、どうしてもそこには触れて欲しく無いらしい。


 表札に『花咲賢也』の名前が入ってたのは間違い無いけど、お父さんは全否定だし、お母さんからもそんな名前を聞いたことは無かった。


 やっぱあたしの思い過ごし? 表札は何かの間違い?


 お父さんの態度は明らかに怪しいけど、今問い詰めたところで答えてくれるとは思えなかった。


 実際、御影神社の秋祭りは5年前の事件の重要キーワードだったから、あたしはこのままお父さんの話に乗ってあげることにした。



「これが......御影神社......なんだ」


「そう、花咲家の直ぐ近くだ。ここの裏庭にはヤギが2匹飼育されてて、お前もよく世話してたな。


 おっと有った有った。これがそのヤギだ。リリーとゴローって名前でな。お前が名付け親らしいぞ。そんなことより次の写真に行こうか......」


 確かに柵の中には2匹のヤギが。美味しそうに干し草を食べてる。とにかくそんな2匹が、あたしには可愛く見えてならなかった。


 もしかしたら僅かながらでも、5年前の記憶が脳の片隅に残ってたのかも知れないね......


 するとあたしは、突然思い出したかのようにスマホを持ち出してパチリ。そんな2匹の写真をスマホに収めてしまった。きっと彼らを少しでも身近に感じてたかったんだろうと思うわ。



 するとお父さんは、早くも次のページの1枚に指を指してる。それは一体どんな写真だったのかと言うと、


「この人って......」


「ああ、和世さんだ。たまに畑で取れた野菜を持ってってやってる。まぁ、罪滅ぼしだな。まぁ、それはいいんだが......」


 写真に写った老婆......それは今日あたしが御影村へ入って初めて出会ったその人に他ならない。酷く罵倒されたことは、今でも記憶にはっきり残ってる。



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