弔い酒
浴衣? しかもピンク?!
別にこの際、着てるものの種類なんてどうでも良かった。
ちなみにあたしは意識を失ってた訳だから、自分で着替えてる訳がない。なら一体誰があたしを着替えさせたって言うの?!
そう思った途端、あたしの表情が見る見るうちに険しくなってることが自分でもよく分かった。きっと鬼の形相を浮かべてたんだろう。
「おお、その浴衣のことか? サイズぴったりで良かったな。まぁ、当たり前か......ウェ」
「あなたが着せ替えた......って言うの?!」
「なんだ、不満か? 昔はよく一緒に風呂入ったじゃないか。そっか......覚えて無いんだったけな。ウェ、ププ......」
「まさか......」
「花咲徹だ。お前の父親だぞ。いい加減、親孝行したらどうだ? 世話ばっか掛けさせやがって......でもまぁ、よく戻って来てくれたな。嬉しいぞ」
「お父さん......」
正直なところ......頭に描いていたお父さんとはイメージが全然違った。
酒でフラフラしてるお父さんを見たら、お母さんはどう思うんだろう?
そう考えると、この初老を目の前にして少しばかり嫌悪感を抱いてしまうあたしがそこに居たりもした。
「頭は痛まないか? 角材が頭に当たってお前、気絶してたんだぞ。まぁ立ち話もなんだ。座ったらどうだ? 聞きたいこともいっぱい有るんじゃ無いのか?」
フラフラした足取りで座布団を2枚敷くと、自ら胡座をかくあたしの父親だった。
お父さんの話に寄ると、あたしが崩れ掛かってた花咲家にドタバタと駆け込んだもんだから、天井の角材が落ちて頭に直撃したらしい。
それであたしをここへ運び込んでくれたのは、その場に居た大地君で、あたしを着替えさせてくれたのは、後から心配してやって来てくれた大地君の奥さんだって話。なんと、噂の実菜ちゃんだ!
そんな中、あたしに合うサイズの服が無かったから、たまたま残ってたあたしの浴衣に着替えさせてくれたそうな。
実菜ちゃんがせっかく来てくれたのに、あたしは寝てたなんて......それを聞いて、超ショック!
でも隣村の隠匿村に住んでるらしいから、記憶が戻った暁にはまた直ぐに会えるんだろう。その時はしっかりお礼しなきゃ!
そんなこんなで......
お父さんは思い出したかのように、冷蔵庫から日本酒を取り出して来た。
「お前、もう成人したんだろう? まぁ飲めや」
「......」
「この酒はな、俺が昔開発に携わった由緒有る山菱酒造の酒なんだぞ。味わって飲んで......」
「お父さん、あたしお酒要らないから」
ついつい強い口調で話を遮ってしまった。
別にあたしはそれが嫌いな方じゃ無い。でもお母さんの気持ちを考えると、とてもじゃ無いけどそんな気にはなれなかった。
「そっか......まぁいいだろう。麹の娘が酒嫌いだったとは驚きだ。ところで......母さんはどうしてる?」
そうだよね、知ってる訳無いか......
なら、ちゃんと話さなくっちゃ。
「お母さんはね......」
「もう死んだんだろ」
「えっ、何で?!」
「だって障害を抱えたお前が、こんなとこまで1人で来る訳無いだろ。分かってて聞いただけだ」
「そっか......」
「やっぱ......そうだったんだな。ちょっと鎌掛けてみたんだが......そうか、死んだのか」
「心臓が......悪かったみたい。家で倒れて......直ぐに救急車で運ばれたんだけど......ダメだった。1週間前の話」
「それで母さん......苦しんだのか?」
「うん......少しだけ」
「そっか......それで、やっぱ飲まないのか?」
「じゃあ、ちょっとだけ」
真っ赤な顔して目頭に涙を浮かべるお父さんを見て、少し可哀想に思えて来てしまった。なので、少しだけ付き合ってあげることにした次第。




