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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第6章 琴音と御影村
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立入禁止

 そんな中、


「やっぱそうか......」


 今、眼前の景色を目の当たりにした瞬間、嗅覚と視覚が見事重なり合ってしまった。


「真っ黒だ......」


「この辺りまで火が来ちまってたからな。あの夜はとにかく風が強かった。悪いことは重なるもんだぜ」


 見ればあの家も、この家も、その家も、みんな真っ黒。しかも崩れ掛けてるし。


 そうじゃ無い建物が有ったとすれば、鉄筋コンクリート造の学校らしき建物くらい。きっとメインロードから広い校庭を隔てて建てられてたから、火を免れたんだろう。


 そんな学校もどう見たって今は廃墟にしか見えなかった。



『御影村の大火災』


 今更ながらにそんなテロップが、あたしの頭の中で乱舞を始めてしまう。


 ここがあたしの生まれ故郷? そう思った途端、ついつい心が塞ぎ込んでしまうあたしがそこに居た。


 それと同時に、いつかこの村を以前みたいな人で賑わう豊かな村に再建したい......そんな大それた『欲』が芽生えたこともまた事実だった。



「さぁ、行くぞ」


「え、あ、うん......」


 テクテクテク......

 テクテクテク......


 そんな物思いに更けながら、再び足を動かし始めたあたしを他所に、やがて3階建ての大きな近代的建築物が見えて来た。


 どうやら何かの工場らしい。言うまでも無くここも『黒』に染まってたけど、見た感じ建物の損壊にまでは至って無いようだ。



「これって、山菱酒造......?」


「おう、よく分かったな。ここが噂の山菱酒造だ。向日葵のお父さんもここで働いてたんだぞ。ちっこい村なのにやたらとでかい工場だろ。大勢が働いてたんだぜ。それと、その隣の家なんだけど......まぁ、ここはいいか......」


 一瞬その家から目を反らした大地君を見て、あたしは直ぐにピンと来てしまった。



「この家って、もしかして......」


 そんなあたしの呟きに対して、大地君はそっぽを向いて知らん顔してる。


「......」


 なので論より証拠。あたしはこの目で確かめることにした。


 すると、思った通り『花咲』。そんな大きな表札が家の前の石柱に掲げられてた。遠目に見ても直ぐに分かる。



 やっぱそうだ......


 そんな訳で、あたしが更に近寄って行くと、


『花咲徹・春子・向日葵・賢也』


 煤で大層薄汚れた表札には、間違いなくそんな文字が認められていたのである。


 「えっ......なに?」


 この羅列された文字を見た途端、あたしの心臓はいきなりバクバクバクし始めてしまった。


 花咲徹とおる

 それは一番先に書かれてる名前。


 あたしのお父さんであることは間違い無さそうだ。


 花咲春子はるこ

 それが次の名前。


 言うまでも無く、あたしの大好きだったお母さん。


 花咲向日葵

 もちろんあたし。


 そして最後に、


 花咲賢也けんや

 これって誰? 


 あたしに姉弟が居るなんて、聞いたこと無いんだけど......



 気付けばあたしは、無意識のうちに家の門の中へと駆け始めてた。


 門の内側にはちょっとしたスペースが有るけど今は伸び切った雑草ばかり。もしかしたら、5年前までは小さな畑だったのかも知れない。


 そんな畑の先に有るものは、もちろん真っ黒に朽ち果て我が家だった。



「お、おい、向日葵! ど、どうした?! 入ったら危ないって。崩れるぞ!」


 どうやら、家の周りに『立入禁止』と書かれた黄色いテープが張られてたっぽいけど、そんなの全然目に入って無かった。 



 何となくだけど......


 家があたしを呼び込んでるような気がした。だから勝手に足が動き出してたんだと思う。



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