立入禁止
そんな中、
「やっぱそうか......」
今、眼前の景色を目の当たりにした瞬間、嗅覚と視覚が見事重なり合ってしまった。
「真っ黒だ......」
「この辺りまで火が来ちまってたからな。あの夜はとにかく風が強かった。悪いことは重なるもんだぜ」
見ればあの家も、この家も、その家も、みんな真っ黒。しかも崩れ掛けてるし。
そうじゃ無い建物が有ったとすれば、鉄筋コンクリート造の学校らしき建物くらい。きっとメインロードから広い校庭を隔てて建てられてたから、火を免れたんだろう。
そんな学校もどう見たって今は廃墟にしか見えなかった。
『御影村の大火災』
今更ながらにそんなテロップが、あたしの頭の中で乱舞を始めてしまう。
ここがあたしの生まれ故郷? そう思った途端、ついつい心が塞ぎ込んでしまうあたしがそこに居た。
それと同時に、いつかこの村を以前みたいな人で賑わう豊かな村に再建したい......そんな大それた『欲』が芽生えたこともまた事実だった。
「さぁ、行くぞ」
「え、あ、うん......」
テクテクテク......
テクテクテク......
そんな物思いに更けながら、再び足を動かし始めたあたしを他所に、やがて3階建ての大きな近代的建築物が見えて来た。
どうやら何かの工場らしい。言うまでも無くここも『黒』に染まってたけど、見た感じ建物の損壊にまでは至って無いようだ。
「これって、山菱酒造......?」
「おう、よく分かったな。ここが噂の山菱酒造だ。向日葵のお父さんもここで働いてたんだぞ。ちっこい村なのにやたらとでかい工場だろ。大勢が働いてたんだぜ。それと、その隣の家なんだけど......まぁ、ここはいいか......」
一瞬その家から目を反らした大地君を見て、あたしは直ぐにピンと来てしまった。
「この家って、もしかして......」
そんなあたしの呟きに対して、大地君はそっぽを向いて知らん顔してる。
「......」
なので論より証拠。あたしはこの目で確かめることにした。
すると、思った通り『花咲』。そんな大きな表札が家の前の石柱に掲げられてた。遠目に見ても直ぐに分かる。
やっぱそうだ......
そんな訳で、あたしが更に近寄って行くと、
『花咲徹・春子・向日葵・賢也』
煤で大層薄汚れた表札には、間違いなくそんな文字が認められていたのである。
「えっ......なに?」
この羅列された文字を見た途端、あたしの心臓はいきなりバクバクバクし始めてしまった。
花咲徹
それは一番先に書かれてる名前。
あたしのお父さんであることは間違い無さそうだ。
花咲春子
それが次の名前。
言うまでも無く、あたしの大好きだったお母さん。
花咲向日葵
もちろんあたし。
そして最後に、
花咲賢也
これって誰?
あたしに姉弟が居るなんて、聞いたこと無いんだけど......
気付けばあたしは、無意識のうちに家の門の中へと駆け始めてた。
門の内側にはちょっとしたスペースが有るけど今は伸び切った雑草ばかり。もしかしたら、5年前までは小さな畑だったのかも知れない。
そんな畑の先に有るものは、もちろん真っ黒に朽ち果て我が家だった。
「お、おい、向日葵! ど、どうした?! 入ったら危ないって。崩れるぞ!」
どうやら、家の周りに『立入禁止』と書かれた黄色いテープが張られてたっぽいけど、そんなの全然目に入って無かった。
何となくだけど......
家があたしを呼び込んでるような気がした。だから勝手に足が動き出してたんだと思う。




