フラッシュバック
そんなあたしと大地君が村役場の広場に差し掛かった時のこと。
「おい、これ凄いだろ?」
突然大地君が目を輝かせて、何やら広場の方に顔を向けてる。そんな視線に釣られてあたしが広場に目を向けてみると、そこには何と、
「ヘリコプター......」
そう......そんな特異な乗り物が広場のど真ん中に置かれてた。しかも、ピカピカに光ってるし。
更に周囲を見渡してみると、そのエリアだけきれいに雑草も刈られてる。あたしがこの村に足を踏み入れて以降、初めて血が通った景色を見たような気がする。
「そうだ。今でも俺がしっかりメンテナンスしてるから全然飛べるんだぜ。でもまだ免許取れて無いから操縦は出来んけどな。でも、もうすぐだ。エヘン!」
「凄い......大地君......操縦出来るんだ......」
「え~と、だから......出来るけど、まだ出来ないんだって」
「そう......」
正直、驚きもしたし、ちょっと感心してしまった。
見れば真っ赤で実に立派なヘリコプター。これが空を飛ぶことも凄いし、大地君がメンテナンスしてることも凄いし、更に操縦出来るなんて......(まだ無免許らしいけど)
それに比べて、あたしは一体何が出来るって言うんだろう? ここへ来るんだって、色んな人達に助けて貰ってばかり。何も出来やしない。
こんなんじゃ、全然ダメだな......
何て思ってると、直ぐに暗闇オーラを出し捲ってしまう正直なあたしがそこに居た。
「ヘリコプターなんか......全然興味無しか......」
そんな悪いオーラは、直ぐに感染してしまうらしい。でもそれは誤解だ。
「そんなこと無い! 大地君凄いな......って思ってた。それに比べて......あたしなんか何も出来やしない......とか思ってた」
正直に言ってしまった。
「おい向日葵......自分を卑下すんの止めろってさっき言っただろ。お前は何でも直ぐ暗記しちまうし、絵は上手いし、とにかく頭が良くて、指先が器用で......俺なんかより全然凄い奴なんだぞ」
「もしそうだとしても......それは5年前のあたし。今のあたしじゃ無い......」
「その5年前の向日葵を取り戻す為にここへやって来たんじゃ無いのか? 違ったか?」
「確かに......そう......だけど......」
「だったらもう直ぐに解決する話じゃねぇか。何ひよってんだよ」
「ご、ごめん......」
「分かったんだったら、とっとと先へ進もう。とにかくあんまり深く考えるなって。なるようにしからなねぇんだからよ」
「うん......」
この時あたしはほんのちょっとだけ親友の実菜ちゃんに嫉妬してしまった。
大地君と出会ったのは、ほんのちょっと前のこと。それなのにあたしは一体何度挫けそうになって、その度に大地君に勇気付けられてるんだろう......
彼は本当に誠実な人なんだと思う。そんな大地君と結婚した実菜ちゃんは、きっと今幸せなんだろうな......って。
あたしもこんな人と巡り会えたらいいのに......なんて少しだけ、未来の自分に期待してしまった。
そんなあたしは今度も大地君に勇気付けられて、再び村のメインロードを突き進んで行くのでした。
テクテクテク......
テクテクテク......
やがて村のメインロードは、緩やかな上り坂へと変貌を遂げていく。
少し息を切らせながら大地君の後を追って行くと、徐々に景観が変化していることに気付き始めてしまった。
「大地君......これって......」
「ひでぇ有り様だろう。もう5年も経ってるんだけどな......」
実は少し前から、ちょっとだけ気になってることが有った。
ん? 臭う......
それは鼻を突くような焦げ臭。あの夜、純喫茶スイートピーで体験したことが、突然フラッシュバックを始めてしまう。




