表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第5章 琴音の覚醒
128/178

置き去り

 気付けば時刻は9時半過ぎ。


 あまりゆっくりもしてられなかったから、あたしはしっかりと味わいながらもいそいそとクレープを平らげた。


 なぜかとても懐かしい味がする。目と頭で覚えて無くても、もしかしたら舌だけがその絶妙な甘さを覚えていたのかも知れない。



 さぁ、お腹も落ち着いたし、そろそろ行こう......


「ご馳走様......でした。また......来ます」


「ありがとう、また待ってるよ!」



 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 店員さんが教えてくれたから分かったんだけど、あたしはこの店の常連客だったらしい。それでいつも『イチゴクレープアイス乗せ』ばかり頼んでたそうな。


 5年経ってあたしの風貌も雰囲気も随分変わっちゃってたけど、店員さんはあたしを見て直ぐにあたしだって分かったみたい。


 あたしの脳は記憶を失ってしまってたけど、足だけはこのお店の場所を覚えてたし、舌だけはクレープの味を覚えてたんだろう。


 本当に不思議な話って有るんだなぁと、あたしはつくづく思ってしまった。


 それと、ちょっとだけ嬉しい話も有った。それはいつもあたしがお友達とここに来てたってこと。


 お友達って......一体どんな人だったんだろう? 


 在来線の中で出逢った女の子達みたいな人なのかな? 


 御影村へ行けば、またそんなお友達と会えるのかな?


 何て考えてると、ついつい心だけが先走ってしまう。



 そんなこんなで......


「よし、早く行こう!」


 あたしは引き当てたピンクのキーホルダーを朝日に輝かせながら、いよいよ最終目的地へと向かって勇み足を踏んで行くのでした。


 さぁ、これから! 


 気持ちが高揚した正にそんな時のこと。それまで快晴だった空に、突如暗雲が立ち込めてしまう事態が......



 時刻は9:40。


 その時あたしはバス停の前で思わず立ち尽くしてた。


「......」


 その慟哭の理由は一体何だったのかと言うと、


【松江行きバス】

 7:30

 9:30

15:30

17:30


 なんと! クレープを食べている隙に、バスはあたしを置き去りにしちゃったらしい。


 ちなみに次のバスは15:30。つまり6時間後ってこと。


 だ、大失敗してしまった!


 天才プランナーの智美ちゃんも、まさかここであたしがクレープを食べるとは思って無かっただろうに。


 困った......


 こんな所で6時間も待ってられないし、タクシーに乗る予算組みなんかもしてない。


 ここからせいぜい10キロの距離と考えれば歩けないことも無いけど、かなり急勾配の山道で足場も悪く、更に言ってしまうと時折クマが出没するらしい。


 更に、更に、悪いことは続いていく。


 ポツポツポツ......何と雨が降って来た。しかも次の瞬間には、


 ザーッ......いきなり集中豪雨へランクアップ。


 あたしは慌ててリュックサックを傘替わりにして猛ダッシュを敢行した。


 それで取り敢えずは、目に付いた服飾チェーン店の入口へと避難を開始!



「はぁ、はぁ、はぁ......」


 もう息絶え絶え、しかもずぶ濡れだ。ショーウインドウに映る自分の惨めな姿を見て、これがあたしの姿かと少々呆れてしまった。


 早く目的地に行かなきゃならないのに、クレープなんか食べてのんびりしてたから、きっとバチが当たったんだろう。


 それはそうと......どうしたらいいの?


 6時間ここでゆっくりするのも1つの手かも知れないけど、そんなことしてたらまた神様が怒ってバチが当たりそう。


 今は集中豪雨で済んだけど、次は雷に打たれるかも知れない。それはちょっと困る。


 ここは一旦頭を冷やして落ち付くべき。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ