当たり
腹が減っては戦は出来ない......そんな格言が頭に過った途端、なぜかあたしの足は勝手に進み始めてた。
それで立ち止まった場所と言えば、
『スーパーよしだ』
そんな看板が掲げられた大きなスーパーの前だった。
更に、テクテクテク......なぜか迂回を始めてその裏側へ。
そこであたしの目に映ったものと言えば、ちょっとしたイートインスペース。複数の丸テーブルが置かれ、既に何人かのお客さんがモーニングコーヒーを嗜んでる様子。
店先のレジ上にホットドッグやらサンドイッチのイラストが描かれてるところを見ると、軽食も取れるらしい。
そんなあたしの姿を店員さんが視界に捉えたみたい。
「おっと?!」
30才前後の細身の男性だ。何か意味深な表情を浮かべていたかと思えば、突然嬉しそうな表情を浮かべて、
「まいど! 今日は何にしましょう?」
気さくに声を掛けて来てくれた。
「......」
一方あたしは無言。
思ったよりいっぱいメニューが有るし、単品やらセットやらパターンも多様化してる。いきなり『何にしましょう』と聞かれたところで、直ぐに答えが出る訳も無い。
う......ん、どうしよう?
しっかりと食べておきたい気もするし......
甘いものも食べたい気もするし......
そんなあたしの優柔不断に痺れを切らせたのか店員さんは、
「お決まりになったら声を掛けて下さいね」
と一言だけ残して、クレープを焼き始めてしまった。きっと1人で店を回してて忙しいんだろう。
すると何やらクレープの香しい匂いがあたしの鼻を刺激し始める。そのお陰であたしの心は一気に傾いてしまった。
「すみません......」
「ごめん、もうちょっと待って」
「はい......」
多分クレープ製作中で手が離せないんだろう。あたしは言われるがまま、そんな店員さんの作業をじっと見詰めながら待つしか無かった。
やがてクレープが焼き上がると、今度は生クリームをたっぷり乗せ始めて、次に予め用意していたイチゴを切り分けて置き始めてる。
それが終わると、クレープをクルクル巻き始めて、最後にアイスを乗せて出来上がり。
「はい、お待たせしました!」
「えっ?......」
なぜか店員さんは、今出来上がったばかりの『イチゴクレープアイス乗せ』をあたしに差し出してるじゃない!
「何で......」
「だって、これでしょ?」
正直、店員さんの言った通り。あたしが食べたかったのは、正にそれだ。
確かにクレープの匂いに触発されてクレープが食べたくなったのは事実。でも店員さんは、あたしが注文する前からそれを作り始めてた。
まさかこの店員さんは人の心の中が見える?
ちょっと不思議だわ。
「おいくら......ですか?」
「今日は俺のおごりだよ。ああ、そうそう......そんなことより今クレープのキャンペーンやっててさ。クレープ1個につきくじ引き1回。さぁ、引いて」
何でおごり?
その理由は全く分からなかったけど、言葉の勢いに流されて店員さんの視線にベクトルを合わせてみると、そこには『くじ引き』とポップ文字で書かれた縦横30センチ程の箱が。
言われるがまま、あたしはそこに手を突っ込んでみた。
すると折りたたまれた沢山の紙の感触が指先に伝わって来る。それでそのうちの1個を摘み出して広げてみると、
『3等』
そんな文字が描かれてたのでした。
「はい、おめでとう!」
どうやら、当たりを引いたらしい。
「3等はうちのオリジナルキーホルダー。好きな色選んで。って決まってるか......」
そんな店員さんが出してくれたキーホルダーの色は、ブルー、イエロー、グリーン、シルバー、そして......ピンクだった。
あたしは目を瞑って1つだけをチョイスすると、
それをリュックサックにぶら下げることにした。
ブラ~ン......
ブラ~ン......




