女子高生
ちなみに車内は、朝の忙しい時間帯であるにも関わらず、下り方面だったおかげで思いの外空いてた。見渡す限り空席ばかりだ。
幸いにもあたしは向かい合った4人掛け席を1人で独占。実にラッキーな話。
ガタンゴトン、ガタンゴトン......
ちょっとレトロ感漂うそんな列車の旅は、観光気分満載だった。窓外の景色が直ぐに大量のアルファ波をあたしの脳に流し込んでくれる。
長閑な街並み、遠くの山々、そして緑豊かな田園風景などなど......それら目に映る全ての景色が新鮮であり、また気持ち良くてならなかった。
それと呼応するかのように、窓の隙間から入り込む自然の香りがあたしの鼻をくすぐった。東京では1度も体験したことの無いこれもまた心地良い刺激だ。
なんとなくだけど......この匂いは夢の中で感じた匂いと同じような気がする。
やっぱ今あたしが向かっている過去の地とあの夢はどこかで繋がってるんじゃ無いのだろうか? 別に確証の有る話じゃ無いけど、直感的にそんな気がしてならなかった。
そんな中、頭が混沌とし始めるあたしを嘲笑うかのように、1駅、そしてまた1駅と停車を繰り返す度に乗客は増え続けていく。
どうやら神様は、あたしに静かな時間を過ごさせるのが面白く無いらしい。いつの間にやら空席が殆ど無くなってる。
そんな状況にはっとしたあたしは、目の前に置いてたリュックサックを慌てて膝の上に移動させた。
すると早速今乗って来たばかりの茶髪女子高生3人組がにこやかな笑顔で、
「席いいですか?」
そんな声を掛けて来た。
何か賑やかそうでちょっと気が引けたけど、もちろん断れる訳も無いし、無視する訳にもいかない。
なので、
「どうぞ......」
そう言うしか無かった。
すると、
「失礼します~!」
元気なハイトーンが返って来る。
見た感じ、あたしが記憶を失うその頃の年齢に近いような気がする。
本来『地味』であるセーラー服姿も、活発な女子高生達が纏ってると、全くそんな『地味』さが感じられなかった。むしろ派手にさえ感じてしまう。
すると、
「お姉さん、岡山の人なんですか?」
やっぱ来たか......今更4人席に座ったことを後悔しても遅い。
「東京......」
正直に答えた。でも単語だけ。しかも、蚊の鳴くような声で。更に地を這うような低い声で。
表情や口調から、『この人はあまり話したく無いんだな』と空気を読める大人なら、多分その後話を続けることは無いんだろう。
でもその娘達は、飛ぶ鳥を落とす勢いの女子高生。決して『大人』じゃ無かったことが災いした。
「東京?! お姉さん凄~い! ディズニーランドしょっちゅう行ってるんですか?!」
止まることを知らない。しかも身を乗り出してるし。
「行ったこと......無い」
「ええっ、マジ? 彼氏と絶対行った方がいいよ。とにかくメルヘンチックなんだから。彼氏にプロポーズされたらどうしよう?! なんてね。えへへ......」
「彼氏......」
正直......彼女が繰り出したそんな単語は、あたしの記憶の中で全く馴染みの無いものだった。きっと脳の奥深くに、封印されたままの単語なんだろう。
「お姉さん彼氏居るんでしょう? 凄いべっぴんさんじゃん! そのヘアークリップも彼氏さんからのプレゼント?!」
正直、それをまだ頭に付けてることすら忘れてた。全部黒ずくめなんだから、確かに目立ってると思う。
「彼氏なんか......居ない」
別にそんなの正直に答える必要も無かったけど、テンポに流されてついつい言ってしまった。
「お姉さんも彼氏居ないんだ......実はあたし達も居ないの。ってことはあたし達仲間ね。でもこれからいっぱいおしゃれしてカッコいい彼氏作るんだから!」
「やっぱおしゃれは大事よ!」
「フムフムフム......」




