在来線
2回もチャレンジして望みの色を引けなかった女の子がその一品を見て興奮する理由も分かる気がする。
そんな予想通りの反応を見届けたあたしは、無言でそれを女の子に差し出してた。
そう......女の子に続いてチャレンジした物好きとは、言うまでも無くあたし。
「えっ、くれるの?」
「......」
目を丸くしてそんな問い掛けをしてきた女の子に対し、あたしは無言でコクリと頷く。
「じゃあ交換しよう! そうね......お姉ちゃんにはきっとこっちが似合うよ!」
えっ、どうして? あたしは思わず心の中で首を傾げてしまった。
だって女の子が差し出してるヘアークリップは、白じゃなくてあたしのイメージとは似ても似つかないピンク色の方だったんだから。
普通は白でしょう?
「ピンク色......」
「うん、今あたしが付けてあげる!」
そんなこんなで......
バスを降りたばかりのあたしの頭には、今もなおそんなピンク色のヘアークリップが、しっかりと留められてる。
外しても良かったけど、せっかく交換したのに付けて無かったら女の子が悲しむと思って。
そんなちょっとだけ成長したあたしは、
「お姉ちゃん、バイバイ!」
向日葵色のヘアークリップを付けた女の子に手を振られれば、
「バイバイ......」
ピンク色のヘアークリップを付けたあたしは、即座に手を振り返す。
それは本当に自然な流れ。何も考えること無く手が自然に動いてたような気がする。
やがてそんな2人の姿が視界から完全に消え失せて、そこに取り残されたあたしに待っていたものと言えば他でも無い。
それはまだここが、ただの中継地点に過ぎないと言う生々しい現実だった。
さぁ、頭を切り替えて先に進まないと......
「よし......」
あたしは小さく首を縦に振ると、直ぐ様回れ右。
そして、
「さぁ、行こう」
ピンク色のヘアークリップを朝日に輝かせながら、再び足を動かせ始めたのでした。
結局のところ......
そのヘアークリップを御影村へ到着するその時まで外すことは無かった。
これを外してしまうと、門出の日に神様があたしに与えてくれたこの細やかな出逢いを自らが消してしまうような気がしてならなかったから。
それと、
真っ黒な靴、真っ黒なスカート、真っ黒なスーツ、真っ黒なリュック、真っ黒な髪の毛、そして......ピンクのヘアークリップ。
誰がどう見たってそれがアンバランスなことくらいは、鈍感なあたしでも分かってる。
でもそんなことなんか、いつの間にやら気にしなくなってるのが、今のあたしだったりもする。
きっとそれまで真っ黒だったあたしの心に、少しだけピンク色の絵の具が注ぎ込まれた瞬間だったんじゃ無いのだろうか。
この後、もっともっと注ぎ込まれればいいのに......なんてこの時点では、他力本願で物事を進めるまだまだ未熟なあたしがそこに居たのでした。
※ ※ ※ ※ ※ ※
ガタンゴトン、ガタンゴトン......
そんな小さな出逢いを経験したあたしの次なる行程はと言うと、
「今度は在来線に乗って麓の駅まで行くのか......」
まぁ、そんなところ。
何だか知らない駅名ばかりだけど、そこまで行ってしまえばもう御影村は目と鼻の先。
麓の駅までは乗り換え無しの一本だし、40分位で到着するらしい。そう考えれば、もうあとちょっとだ。
そんなこんなで......
スマホナビの恩恵に浸かったあたしは、今見事に列車の中。予定通りの在来線に無事乗れたってことになる。
「ふうっ......」
今度は打って変わって気分は少しまったりしてた。さっきがONなら今はOFF。まぁ、そんな感じ。




