ヘアークリップ
スヤスヤスヤ......
今日もまたあたしは
いつもの通り
真っ暗闇の中を1人で歩いてる。
きっと今あたしは
夢と現実の狭間の世界に
紛れ込んでるんだろう。
「ここはどこ?」
そんな世界の中で
今日も手探りしながら
歩き続けるあたし。
ザッ、ザッ、ザッ......
この足音は草履?
かも。
なんとなくだけど、
石段を上がっているような
気がする。
すると何やら、
木の枝葉が風で揺れる音が。
しかも至る所から。
夢の中を彷徨ってる筈なのに、
ほんと不思議な感覚。
そしてあたしは
またいつもと同じ場所で
立ち止まった。
なぜそこで、
足を止めるのかは
今日も分からない。
ただその場所に来ると、
必ず足が勝手に止まる。
多分だけど、
夢を操る誰かが
あたしをその場所に
行かせたくて仕方が無いんだろう。
すると今日もまた
天上から 目が眩む程の光が差し込んで
辺り一面が真っ白になる。
「眩しい......」
あたしは導かれるかのように
空を見上げた。
この光の正体は
間違い無く月灯りだった。
そしてそんな月光は
あたしの目の前に存在する
お地蔵様を映し出していた。
何であなたは
お地蔵様なのに
真っ黒なの?
何であなたは
下ばかり見てるの?
一体何を見てるって言うの?
あたしは勇気を振り絞って
そんなことを聞いてみた。
でもお地蔵様は
答えてくれなかった。
やがて......
天から降り注ぐ真っ白な光は
あたしの視界に映る全ての景色を
白に染めて
再び何も見えなくなっていく。
黒で始まった夢が
また今日も白で終わりを遂げた。
もしかしたら
あたしが真の花咲向日葵を
取り戻したその時、
お地蔵様は笑顔を見せて
くれるんじゃ無いかな。
何となくだけど......
たった
それだけの夢。
1分にも満たない短い夢だったのか、
1時間を超えるような長い夢だったのか、
そんなことすらも分からなかった。
全くそんな時間と言う観念が
存在しないと言うことは
時空を越えた未知なる空間に、
あたしは今日も
迷い込んでしまって
いたのかも知れない......
※ ※ ※ ※ ※ ※
またしてもそんな夢を見た翌朝のこと。
4月19日(土)の8時過ぎ。
遂にあたしは西のその地に舞い降りてた。
『岡山駅』目の前にはそんな大きな看板が威風を放ってる。
「とうとう来たんだ......ああ、眩しい」
起きて早々、追い立てられるようにしてバスを降りたあたしの目には、快晴とも言える太陽の日射しは少し刺激が強かったらしい。
実は昨晩......
トイレ休憩で立ち寄ったサービスエリアで、あたしはちょっとした買い物をしてた。何気にお土産コーナーを覗いてたその時のこと、
「お母さん、お願い! もう1回だけやらせて!」
見ればガチャポンが並んだスペースで、さっきあたしを『地味』と言った女の子がダダをこねてる様子。
「しょうがないわね......じゃあ、あと1回だけよ」
「やったぁ、次は絶対黄色いの取るよ!」
そんな喜びを見せてる女の子の左手には、ピンク色の可愛らしいヘアークリップが。
どうやらこのサービスエリアでしか手に入らないご当地キャライラストが描かれたヘアークリップらしい。
「えいっ!」
ガチャガチャ......
ゴロゴロゴロ......
女の子の期待を背負い再び現れた商品はと言うと、
「あちゃ、白だ......」
どうやら神様は、この女の子に生きていくことの厳しさを教えたかったみたい。
「さぁ、切りが無いから行くわよ。バスに乗り遅れちゃうわ」
お母さんが女の子の手を取って、その場を立ち去ろうとしたその時。
ガチャガチャ......
ゴロゴロ......
なんと、再びガチャポンに硬貨を投入しチャレンジする人が居た。
それで出て来たヘアークリップはと言うと、
なんと......向日葵色だった。
「あっ、黄色だ!」




