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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第5章 琴音の覚醒
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ろくろ首

 一瞬夢の中かと思いきや、薄目を開けてみると、目の前にはお下げ頭の可愛らしい女の子のアップ顔が。


 前の座席の上からあたしの顔を見下ろしてる。お地蔵様じゃ無いから、きっとこれは夢じゃ無くて現実なんだろう。


「......」


 いきなりそんな言葉を掛けられても、気の効いた返しが出来るタイプじゃ無い。ただ唇をワナワナと震わせてることくらいしかこの時のあたしはまだ出来なかった。


 でもおかげで目が覚めた。


 すると、


「あ、あら、すみません。ちょっと怜奈レナちゃん静かにしてなさい! お姉さんに迷惑でしょう!」


「お姉ちゃん、もっと派手な服の方が似合うよ。地味過ぎて死んでるのかと思った」


「怜奈、止めなさい!」


 お母さんが大層な慌て振りで女の子を無理矢理座席に戻してくれた。どうなることかと少し混乱したけど、ちょっとホッとしてしまった。



『地味』


 ちなみにそんな言葉を耳にしたのは、今日だけでも2回目。


 翔子さんは思ったことを何でも言っちゃう性格だし、子供の言うことは正直だって聞いたことがある。


 トータル的に考えると、やっぱあたしは筋金入りの地味女なんだろう。もちろん見た目だけじゃ無くて、内面も含めての話。


 そんなことばかり考えてたら、いつの間にやら完全に目が冴えてしまった。


 無理矢理目を瞑ってヤギの数を数えても、ヤギが可愛くて余計寝れなくなってしまう。もしかしたら以前のあたしはヤギを可愛がってたのかも?


 それはそれとしてこれはちょっと困った......明日からはどう考えても奇想天外の連続が待ち受けてる筈。身体も心もここで休ませおかないと、向日葵の芽が厳しい日差しに晒されてしおれちゃいそう。


 枯れたらそこで『向日葵の観察記録』もFINを向かえることになる。ここは一旦気分を変えて、少し頭を冷やした方が良さそうな気がして来た。



 そんな訳で......


『今このバスにはどんな人達が乗ってるんだろう?』


 なんて、どうでもいいようなことにアンテナを向けてみることにした。正直、苦肉の策だけど。


 思い立ったら即行動と言うことで、直ぐ様あたしは目立たぬよう『ろくろ首』に変身してバスの中を見渡してみた。この時点でもう完全に目が冴え渡ってる。


 どれどれ......


 まずは一番前。


 運転手さんとバスガイドさんがにこやかに談笑してる。

 

 次に老夫婦が仲良くお煎餅を食べてる。(微笑ましい光景ね)


 次に雰囲気がよく似た年若き女性の2人がガイドブックにポストイットを貼ってる。(多分姉妹で観光旅行かな?)


 次にサラリーマン風の男性2人がパソコンに何やら夢中の様子。(仕事で出張か?)

 次に大きなスーツケースを荷台に積み上げた初老の男性2人が将棋を指している。


 それと、今あたしと触れ合ったばかりの母子の2人。


 などなど......


 それ以外の乗客はと言うと、窓ガラスに映る地味で、影が薄くて、暗い、たった1人のあたしくらいなものだった。



 そっか......1人で乗ってるのあたしだけだったんだ。


 今更になって、そんなことに気付いてしまう。


 ちなみにそんなあたしはと言うと、東京から出るのが初めて。ひとり旅するのも初めて。夜行バスに乗るのも初めて。


 そして今、1人で居ることが初めて恐くなるあたしがそこに居たのでした。


 これが智美ちゃんが言ってた『寂しい』って感情なんだ......あたしったら、一体どうしちゃったんだろう? 


 智美ちゃん

 翔子さん

 隆美さん

 それと

 お母さん......


 いつの間にやら、そんな懐かしい人達の姿が次々と頭に浮かんでは消えていく。


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