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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第5章 琴音の覚醒
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夜行バス

 初めての場所なのに何でそんな離れ業が出来たかのと言うと、智美ちゃんが東京の家から御影村までのルートを全部あたしのスマホのナビに入力してくれてたから。


 あたしは何も考えないで、ただスマホ画面に映しだされたルートを足がなぞって行くだけで良かった。


 これも智美ちゃんに感謝しなければならない。至れり尽くせりだ。ありがとう......智美ちゃん。



 やがて、


『新宿駅→岡山駅』


 そんな表示が出てるバスの前まで行ってみると、にこやかな笑顔を浮かべたガイドさんが直ぐに声を掛けて来てくれた。


 キリっと化粧を施したそんなガイドさんは、笑顔を見ただけでその熟練さが分かるような気がする。


『笑顔は人を幸せにする魔法が掛けられてる』


 ちょっとだけ幸せな気分になったあたしは、生前お母さんが話してくれたそんな言葉を思わず思い出してしまった。



「ようこそ岡山行きの夜行バスへ。お名前を頂戴しても宜しいでしょうか?」


「はい、山村......いいえ......は、花咲、向日葵......です」


「花咲様ですね......はい、確かにご予約承っております。座席は......12番ですね。左側のちょうど真ん中辺りです」



 正直言って、まだ『花咲向日葵』と言う名前に慣れて無かった。


 智美ちゃんは予約する時に『どっちの名前にする?』って聞いてくれたけど、あたしは迷わず『花咲向日葵』って答えた。


 だってそれがあたしの本名なんだから。今はまだ実感が湧かないけど、それも直ぐに慣れて来るんだろう。


 そんな葛藤を経て花咲向日葵と答えたあたしは、バスガイドさんに言われた通り『12』と描かれた座席に腰を下ろした。


 薄緑色のシートに純白のシーツが掛けられた実に清潔感漂う座席だ。



 よっこらしょっと......


 その座席は確かにバスのちょうど真ん中辺り。窓際で良かった。外の景色観るの好きだから。


 隣は空席だろうからリュックサックは荷台に上げないで隣の座席に置くことにした。みんな直ぐに寝ると思うから、何度も荷物を出し入れしてると迷惑かなって思って。


 ちなみにお客さんの数は15人くらい。かなりスカスカの印象。これなら到着する明日の朝まで口を開けて寝れそうな気がする。


「ふぅ......」


 あたしが緊張の糸をほどき、背中をシートに押し付けたちょうどその時、


 ゴゴゴゴゴ......


 バスはエンジン音を立ち上げ、5年間だけの思い出が詰まった首都東京を後にしていく。


 時刻は9:50。定刻通りの出発だ。



 そんなこんなで......


 バスは一気に高層ビル群を潜り抜けると、首都高速入口のスロープへと突入して行く。その後は東名高速、名神高速と続いて行くんだろう。


 ちなみに東京から岡山までは、距離にして600キロ超。


 地元の街から殆ど出たことが無いあたしからしてみると、感覚的には地球を一週するのと大して変わりない。正直想像が付かなかった。


 そんな中、


 慣れない環境で寝れなかったらヤダな......なんて心配してたのも束の間、10分もしないうちにあたしは、コックリ、コックリ......目蓋の重さに耐え切れなくなってしまった。


 普通だったら座席を少し倒す場面なんだろうけど、後ろにどんな人が座ってるのかも分からないし、後ろを覗いて目が合ったらやだし......


 何てモジモジしてるうちに眠くなって来てしまったって言うのが経緯。意外と自分は図太いのかも? 何て少しだけ自画自賛するあたしが居たりもする。



 そしてバスが首都高速から東名高速へ移行したちょうどその時のこと。


「お姉ちゃんはお葬式に行くの?」


 え、なに?!


 なんと、突然誰かが声を掛けて来た。



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