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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第5章 琴音の覚醒
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新宿

 これで全員。


 旅立ちの今日、みんながあたしを見送りに来てくれたから、あたしはこうやってみんなにお別れの挨拶をすることが出来た。何となくだけど......肩の荷が少し降りた気がする。


 ちなみに出掛ける時義理父さんは、これから大変だからってあたしにお金をくれようとした。


 でもあたしは受け取らなかった。だってこれから自分の力で生きてくって決めたばかりなんだから、それは正しい判断だったと思ってる。


 とは言っても、これからの道のりは全てが不安だらけ。あたしの記憶の中で東京を離れたことも無ければ、1人で旅したことなんかも無い。


 でもあたしは、


「行って来ます」


 元気にそう言った。


 これ以上みんなに心配掛けたく無い......そんな強い気持ちがヘタリ気味なあたしの脳に活を入れてくれたんだろう。



「行ってらっしゃい!」


「元気でね!」


「身体に気を付けろよ!」


「いつでもLINEして!」


 そんな優しい言葉に背中を後押しされるあたし。みんな笑顔で手を振ってくれてる。



 何となくだけど......


 山村琴音としてみんなと会うのは、これが最後のような気がしてならなかった。それが嬉しくもあり、悲しくもあり......


 今となって思い返してみれば、この時既にあたしは山村琴音と言う名からの決別を決心してたんだと思う。無言、無反応、無感情、そんな全てが『無』と化した自分との決別をね。



 実は今月に入った頃から、あたしは自分の脳の変化に少しづつ気付き始めてた。それは『欲』と言う名の厄介な感情の出現。


 思い返せばそのきっかけは多分、平手さんから向日葵の種を貰った時だったと思う。この種を育てて立派な花を咲かせたい......それがあたしに芽生えた最初の『欲』。


 そして今あたしは以前の自分を取り戻したいと言う更なる『欲』を達成するが為、生まれ故郷の御影村へ行くことを決意した。


 そんな強い気持ちを心に秘め、遂にあたしは、


 テクテクテク......


 みんなに後ろ髪を引かれる思いで、1人改札を潜り抜けて行ったのでした。



 ちなみに、【この後の予定】


 20:40 出発

 21:10 新宿駅到着

 21:50 岡山行 夜行バス出発

  8:10 岡山駅 到着


 あたしはホームの階段を上りながら、そんなメモに目を通してた。


 昨晩智美ちゃんが搭乗予約を手伝ってくれたから、すんなりバスの予約を取れた次第。もしあたし1人だったらそう簡単にはいかなかっただろう。


 その時智美ちゃんは、


『新幹線で行った方が早いし楽だよ』


 って言ってくれたけど、あまりお金持ってる訳じゃ無いから、あたしは夜行バスで行くことを決めた。


 ちなみにバスの出発時刻は、メモに書いた通り21時50分。


 まだかなり時間は有るけど、あたしの記憶の中で新宿は始めてだから、迷うことも考えて少し早く出たのは正解だと思ってる。



 そんなこんなで......


 乗り慣れた在来線に乗ること30分。不夜城と言われる新宿に到着することが出来た。


 こんな夜更けだって言うのに、とにかく明るくて人が多くて、賑やかで......見るもの全てが新鮮で、あたしはただ目をぱちくりさせてるだけだった。


 きっとあたしの知らない過去の自分も、こんな大都会で時を過ごした経験は無かったんだろう。



 そんな街中を歩くこと10分。あたしは迷うこと無く最短時間で、高速バス乗場へと到着することが出来た。



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