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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第5章 琴音の覚醒
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門出

 4月18日(金)20時30分

 

 大好きだったお母さんの死から、4日が経過したその夜のこと。


 ワイワイ......


 ガヤガヤ......


 仕事を終えたばかりで少し疲れ気味なサラリーマンや、これから飲みにでも行くのか、にこやかな笑顔を浮かべたOL集団、などなど......


 今あたし向日葵は、そんな大勢の人達で賑わう駅の改札口をバックになぜか直立不動のポーズを取ってる。別にハチ公になった訳じゃ無いけど。


 そんなあたしの装いはと言うと、面接の時に着た黒のリクルートスーツ上下、白のブラウス、黒のハイヒール。それと黒のリュックサック。


 特に深い意味は無かった。何を着ていいかも分からなかったから、無難なところでそんな一式にしたまでのこと。


 ワイワイ......


 ガヤガヤ......



 やがてそんな賑わいを見せる改札口の前で、


「皆さん......大変お世話に......なりました」


 あたしは慇懃にペコリ。4人に向かって深々と頭を下げた。すると......


「琴音ちゃん、あたしもお母さんが亡くなった時は本当に辛かった。でもお母さんはいつもあたしのこと見ててくれてるって思ったら、凄く楽になったの。


 だから琴音ちゃんも寂しくなったらそう思ってね。きっとお母さんはあなたのことを見てくれてると思うよ。それと......琴音ちゃんに代わって向日葵の種しっかり育てるからね」


 まだ呆気なさが残る彼女が、真っ先にそんな言葉を返してくれた。


 寂しいって何なんだろう? 


 そんな疑問符を残しつつも、


「智美ちゃん......ありがとう」


 あたしは率直な気持ちを彼女に伝えた。



 智美ちゃんとは辛い思い出がいっぱい有るけど、最後には打ち解けて普通に話せるようになった。そこだけは本当に良かったと思う。


 あと向日葵の種が心配だったから、そう言ってくれたことに関しては本気で感謝してる。



 次に......


「琴音......本当に大丈夫なのか? 智美とも話したんだが......このまま家に居て貰っても構わないんだぞ」


 初老のその人が、不安気な表情でそんな声を掛けてくれた。


「ありがとう。でもあたし......もう行くと決めた。これからは......自分の為に......1人で生きて行く。お義父さん」


 お義父さんはあたし達が一番辛かった時に、家族の反対を押し切って家へ招いてくれた。お母さんはこの恩は返さなければならないと言ってたから、いつの日かあたしが恩を返そうと思ってる。


 今はただ感謝することしか出来ないけどね......



 そしてその次に、


「琴音ちゃん、門出の日なんだからそんな地味な顔してないでパァっと元気に行こうよ! やっぱ......心配だからあたしも一緒に行こうか? 仕事決まらなくて暇してるし」 


 同い年のその人が、心配そうにそんな声を掛けてくれた。


「心配してくれて......ありがとう。でも大丈夫。あたしは1人で......行く。翔子さん」


「そっか......じゃあ、頑張って!」


 翔子さんだけは同じ目線であたしと接してくれてたと思う。きっと彼女のことを、友達って言うんだろう。


 これからもあたしは翔子さんを大事にしていこうと思ってる。翔子さんも彼氏と一緒に幸せになって欲しい。今はただそう願うばかりだ。



 そして更に、


「琴音ちゃん、お店のことは心配しないで。光太も足以外は軽症だったし、あたし達もこれから頑張って店を再建していくから。だから......琴音ちゃんも気を落とさないでね」


 まだ心の傷が癒えていないだろうその人が声を掛けてくれた。


「ありがとう......隆美さん」


 隆美さんは店は失ったけど、家族を失った訳じゃ無いから、これからいくらでもやり直せると言ってた。


 早く純喫茶スイートピーが再建出来るようにって、昨日あたしは夢に出てくるお地蔵様にお願いしておいた。お地蔵様は笑ってたから、きっと直ぐに再建出来るんだろう。



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