隠し部屋
「お前が諦めてどうする?! もしかしたら爆発する前に逃げてて、今どこかに居るかも知れないじゃないか?!」
「でも近所の人がずっと見てて、誰も出て来て無いって言い切ってるのよ! もうヤダ......あたしが死んじゃえば良かった!
光太......琴音ちゃん......ごめん、ごめんね。全部、あたしが悪いの。恨むならあたしを恨んで! うっ、うっ、うっ......」
足元で泣き崩れる隆美さんに対し、店長は掛けてあげる言葉がもう何も見付からない。
「くっそう......何でこんなことになっちまったんだ?! うっ、うっ、うっ......」
店内全てを焼き尽くした大火災。状況からしてもはや誰の頭にも『絶望』と言う言葉しか浮かんで来なかった。
ただ唯一希望が有るとするならば、未だ若き2人の亡骸が見付かって無いと言うことくらい。しかしそれも時間の問題としか言いようが無かった。
ところが......
「やはり2人の姿が見付かりません。建物内の全てを探しました。本当に、中に居たんでしょうか?」
全ての捜索を終えた消防隊員が2人に発した言葉とは、予想に反してそんなだったのである。
「ま、まさか......」
「も、もしかして......」
そんな消防隊員の報告を聞いて、何かを思い出したかのように顔を見合わせる隆美さんと店長の2人。それまで青白かった顔が、いつの間やら血色を取り戻している。
「消防隊員さん、今全部見たって言ってましたけど、本当に全部見たんですか?!」
「間違いなく全部見ました。まぁ、隠し部屋でも有るなら話は別ですが......それでも火災時、建物内の温度は500度以上に達します。厳しい話ですが見込みは無いものかと......」
「それが有るんです! 隠し部屋って訳でも無いんですが、そこなら熱に耐え得る筈です!」
「ちょっと何言ってるんですか? まさか核シェルターが有るとか?!」
「もうじれったい! いいから一緒に来て下さい!」
「さぁ、行きましょう!」
そんな2人の思わぬ提言に、動揺を隠せない消防隊員。
もしかしたら......絶望的な現実を受け入れることが出来ず、有りもしないことをただ口走っているだけなのでは?
とは言え、そのように語った2人の目には光が灯り、決して嘘を言っているようには見えなかった。
「分かりました。では2人共これを着て下さい。それとヘルメットも」
この時、隆美さんと店長の2人は、ある一つの可能性に賭けていた。それは店内において唯一火から逃れられる可能性があるそのスペースのことだった。
そしてそのスペースのことを琴音ちゃんは知っている!
それこそが、2人の思い描いた最後の希望だったのである。
やがて......
隆美さんと店長の2人は、前後2人づつ計4名の消防隊員に挟まれながら、変わり果てた店内へと歩を進めて行く。
そこで2人が目にしたものと言えば、余りに変わり果てた自分等の愛する職場だった。
壁、天井、テーブル、食器棚......残念なことに、視界に入るその全てが酸化して真っ黒になってた。見ているだけで目に涙が込み上げてくる。
でも今はそんなことより、もっと大事なことが有る。それは言うまでも無い。2つの若き命だ。
そして、ようやく足を止めた場所......それはカウンターのちょうど内側。厨房だった。
その時2人の4つの目が視線を向けていた場所。そこはなんと! 足元、即ち床だったのである。
しかしそんな床も、今や落下した天井やら崩れ落ちた棚の残骸やら食器やら、瓦礫の山で覆い尽くされてた。
「ここがどうしたんですか?」
当然のことながら、消防隊員達は互いに顔を見合せ首を傾げてる。
「とにかくこの瓦礫をどかしてくれ! さぁ早く!」
???
「分かりました!」




