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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第5章 琴音の覚醒
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隠し部屋

「お前が諦めてどうする?! もしかしたら爆発する前に逃げてて、今どこかに居るかも知れないじゃないか?!」


「でも近所の人がずっと見てて、誰も出て来て無いって言い切ってるのよ! もうヤダ......あたしが死んじゃえば良かった!


 光太......琴音ちゃん......ごめん、ごめんね。全部、あたしが悪いの。恨むならあたしを恨んで! うっ、うっ、うっ......」


 足元で泣き崩れる隆美さんに対し、店長は掛けてあげる言葉がもう何も見付からない。


「くっそう......何でこんなことになっちまったんだ?! うっ、うっ、うっ......」



 店内全てを焼き尽くした大火災。状況からしてもはや誰の頭にも『絶望』と言う言葉しか浮かんで来なかった。


 ただ唯一希望が有るとするならば、未だ若き2人の亡骸が見付かって無いと言うことくらい。しかしそれも時間の問題としか言いようが無かった。



 ところが......


「やはり2人の姿が見付かりません。建物内の全てを探しました。本当に、中に居たんでしょうか?」


 全ての捜索を終えた消防隊員が2人に発した言葉とは、予想に反してそんなだったのである。



「ま、まさか......」


「も、もしかして......」


 そんな消防隊員の報告を聞いて、何かを思い出したかのように顔を見合わせる隆美さんと店長の2人。それまで青白かった顔が、いつの間やら血色を取り戻している。



「消防隊員さん、今全部見たって言ってましたけど、本当に全部見たんですか?!」


「間違いなく全部見ました。まぁ、隠し部屋でも有るなら話は別ですが......それでも火災時、建物内の温度は500度以上に達します。厳しい話ですが見込みは無いものかと......」


「それが有るんです! 隠し部屋って訳でも無いんですが、そこなら熱に耐え得る筈です!」


「ちょっと何言ってるんですか? まさか核シェルターが有るとか?!」


「もうじれったい! いいから一緒に来て下さい!」


「さぁ、行きましょう!」


 そんな2人の思わぬ提言に、動揺を隠せない消防隊員。



 もしかしたら......絶望的な現実を受け入れることが出来ず、有りもしないことをただ口走っているだけなのでは?


 とは言え、そのように語った2人の目には光が灯り、決して嘘を言っているようには見えなかった。


「分かりました。では2人共これを着て下さい。それとヘルメットも」



 この時、隆美さんと店長の2人は、ある一つの可能性に賭けていた。それは店内において唯一火から逃れられる可能性があるそのスペースのことだった。


 そしてそのスペースのことを琴音ちゃんは知っている! 


 それこそが、2人の思い描いた最後の希望だったのである。



 やがて......


 隆美さんと店長の2人は、前後2人づつ計4名の消防隊員に挟まれながら、変わり果てた店内へと歩を進めて行く。


 そこで2人が目にしたものと言えば、余りに変わり果てた自分等の愛する職場だった。


 壁、天井、テーブル、食器棚......残念なことに、視界に入るその全てが酸化して真っ黒になってた。見ているだけで目に涙が込み上げてくる。


 でも今はそんなことより、もっと大事なことが有る。それは言うまでも無い。2つの若き命だ。



 そして、ようやく足を止めた場所......それはカウンターのちょうど内側。厨房だった。


 その時2人の4つの目が視線を向けていた場所。そこはなんと! 足元、即ち床だったのである。


 しかしそんな床も、今や落下した天井やら崩れ落ちた棚の残骸やら食器やら、瓦礫の山で覆い尽くされてた。



「ここがどうしたんですか?」  


 当然のことながら、消防隊員達は互いに顔を見合せ首を傾げてる。


「とにかくこの瓦礫をどかしてくれ! さぁ早く!」


 ???


「分かりました!」



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