捜索
隆美さんはもう、居ても立ってもいられなかった。2人だけを残して店を出たことに対して、今更のように後悔の念が押し寄せてくる。
するとそんな隆美さんの慌てた様子を見付けたご近所の老夫婦が、青い顔して歩み寄って来た。
そしてその者達は、見たままの状況を詳しく話し始めてくれたのである。
「30分前くらいかしら。何か爆発するような音がしたから何事かと思って外に出たのよ。そしたらあなたのお店が燃えてるじゃない!
これは大変と思って直ぐに119番通報したの。その後気になってずっと見てたんだけど、お店からは誰も出て来て無い筈よ。ねぇ、あなたも見てたでしょう?」
「う、うん、間違い無い。俺も見てたけど誰も中から出て来ておらん。ま、まさか......中に人が居たって言うのか?! そりゃあ大変だ!」
「ど、どいて!」
無意識のうちに隆美さんは警察官を突き飛ばし、既に第一歩を踏み出してた。脳が命令するより早く足が勝手に動き出してたんだろう。
タッ、タッ、タッ!
「ダ、ダメだ!」
一方、そんな隆美さんの電撃的行動に慌てた警察官は、突き飛ばされながらも寸前のところで踏み止まり、隆美さんの腕を掴んだ。
きっと隆美さんが必死なら、市民の命を守る警察官も必死だったんだろう。
「あんた死にたいのか?!」
「お願いだから行かせて! まだ中にあたしの息子と大事な従業員が居るの! 死なせたりしたらあたしはどの面下げて親御さん達に謝ればいいのよ。離して、離してってば!」
「何もあなたが行かなくても、これから完全防備したレスキュー隊員が息子さん達を助けに行く。あなたが邪魔をすれば、それだけ突入が遅くなるんだそ。分からないのか?!」
「だって......だって......ゲホッ、ゲホッ」
この時、隆美さんの顔も警察官の顔も既に黒煙に包まれ真っ黒になっていた。気付けば辺りは大量の黒煙で覆われ、まるで暗黒の世界と化してる。
「光太! 琴音ちゃん! いやぁー!」
地に跪き、拝むような姿勢で慟哭の声を上げる隆美さん。きっとそんな魂の叫びは、山を越え、海を越え、時空を越えて、2人の元へ届いて行ったのだろう。
そして......
純喫茶スイートピーでそんな大惨事が起きてから1時間が経った後。消防隊における決死の消火活動が功を奏し、ようやく火は消し止められた。
残るは店内に居たであろう2人の命と言うことになるのだが、それを望むにしては1時間と言う時間が余りに長過ぎたと言わざるを得ない。
「隆美、お前なんで2人だけ置いて店を離れたんだ?!」
「だって......まさかこんなことなるなんて思わないじゃない! 大体あなたこそ何で電話出てくれ無かったのよ?!
あなたがあの時電話出てたら、こんなことにならなかった筈よ! あたし、電気のことなんか全然分かんないだから! うっ、うっ、うっ......」
店長たる光太の父が知らせを受けここへやって来たのは、火災が発生してから30分が経過した後のこと。
同窓会が行われてた居酒屋のテレビを見てこの惨事を知ったらしい。もう完全に酔いは覚めてる。
「もう止めよう......起きてしまったことだ。誰が悪いとか今更言ってても何も解決しやしない。そんなことより2人はどうしちゃったんだ? なぜ見付からないんだ?!」
「今消防の人達が必死に中を探してくれてる。でもまだ見付からないの。どうしちゃったって言うのよ?!」
ちなみに......
店内はその全てが焼け尽くされていた。非常に残酷な話ではあるが、もし店内で2人が見付かったとしたらそれ即ち『死』を意味する。
そんな隆美さんの発した言葉には、明らかなる諦めの感情が含まれていたことを店長は見逃さなかった。




