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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第5章 琴音の覚醒
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灼熱地獄

 彼女は即座にスマホをポケットに戻すと、辺りをキョロキョロし始めた。どうやら全神経を鼻に集中してるらしい。鼻をクンクンさせている。


 やがて琴音は厨房の奥へと歩を進めていった。どこからか流れ込んで来る臭気が気になって仕方が無いらしい。



 クンクンクン......


 ちなみにIHコンロの上には、ブイヨンが満タンに入った大鍋が。IHコンロの電源はOFFになっているし、当然中身も焦げ上がって無い。


 オーブンレンジを開けてもみたけど、中に焦げたピザも置かれて無いし。


 結局店内を全て見て回ったけど、臭気を発生させるような要因は何1つとして見付けることは出来なかった。



「?......」


 琴音は小首を傾げながらカウンター席へ戻ると、再びスマホに指を触れる。


 そして、


『もう直ぐ帰るから。先に寝てて』


 呑気にも母へそんなメッセージを送っていたのでした。



 そんな中、


 遂に......バチッ、ゴーッ!


 爆音と共に、悪夢は最終局面へと到達してしまったのである。


 なんと! 


 配線から飛散を続けていた火花が、廃油で満タンとなった一斗缶を炎の渦へ!


「!!!(な、なに? どうしたの?!)」



 残念なことに......


 今この店には店長も隆美さんも居ない。居る者と言えば、まだ物心付いたばかりの居眠り少年と、ライターの火を見ただけで頭を抱えてしゃがみ込んでしまう年若き女性の2人のみ。


 油と火......


 そんな役者達が共に手を組めば、火龍と言う名の悪魔が君臨することは、小学生でも知ってること。


 そうともなれば、純喫茶スイートピーと若き2人の命がもはや風前の灯。それはもう、逃れようの無い事実だったのである。



 やがて、バックヤードで産声を上げた火龍は一気に壁、天井までをも包み込み、更には店内へとその勢力を増していく。そのスピードはもはや尋常じゃ無かった。


 ゴゴゴゴゴゴッ!


 既にそれは『火災』の域を遥かに超えていたのである。


 突然なる烈風が吹き荒れ、それに乗った無数の火の粉が琴音の頭に降り掛かり、いつの間にやら髪の毛はチリチリと音を立て始めてる。もはや1秒足りとも猶予は無かった。


 瞬きする度に火は2人の側面、そして背後までをも消滅させていった。そんな危機たる状況であるにも関わらず、琴音はと言うと、


「あわわわわ......」


 脳にプログラミングされた通り、頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。もうこうなると一貫の終わりとしか言いようが無い。



 一方夢追い人の光太くんも、


「ん......なに? 何だか熱くて、煙いんだけど......え? な、なんだ? か、か、か、火事?! マジで?! ゲホッ、ゲホッ......」


『火災時の対処法』など、頭の中にインプットされてる訳も無かったのである。しかも寝起きときてる。


 気付けば、壁、天井、テーブル、椅子......その全てが炎に覆い尽くされてる。前後左右、どこを見渡しても炎ばかり。


 この時点で既に生への道は、その全てが閉ざされてたと言わざるを得なかった。



 更に悪夢は続いていく。


 バサッ、ゴトゴトゴトッ!


 なんと! 天井が崩れ落ちて来たのである。寄りによって、彼の足目掛けて!


「うわぁ!」


 それは正に、目を疑うような光景だった。崩れ落ちた天井が、見事なまでに光太の足を押し潰してる。


「い、痛いっ!」



 恐らく......もしこのまま誰も手を差し伸べずにいたならば、まず真っ先に光太くんが猛火に包まれていくことだろう。


 それが一番よく分かっていたのは、もちろん本人。なのでもう叫ぶしか無かった。ライターの火を見ただけでフリーズしてしまうその者へ向かって!



「こ、琴音ちゃん! な、何頭抱えてるんだよ! 早く助けて! 焼け死んじゃうじゃん!」


 ところが当の琴音はと言うと、


「あなたは......誰?」


 なんと! キョトンとした顔で、そんなトンチンカンな疑問符を投げ掛けて来たのである。烈風吹き荒れる灼熱地獄の中で。




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