罪
「人は罪を犯したら必ずその罪を償わなければならない。それは犠牲者とその遺族の為でもあり、また本人の為でもある。
その娘に一生殺人鬼って名の十字架を背負わせておくつもりか? もしあんたがその娘の友人なら公の場で真実を話させろ。それが正しい道ってもんだ」
一方翔子も性分柄、その程度のことで負けてる訳にもいかない。
「何だかごちゃごちゃ言ってるけど、この琴音ちゃんは罪なんか犯す訳無いの! 分かったらとっとと消えなさい! これ以上付きまとうと本当に警察呼ぶわよ!」
「琴音? この娘はそんな名前じゃ無いぞ。偽名まで使って用意周到だな。ふん、まぁいいだろう。今日はこれ位にしといてやる。ただ覚えとけ。真実は1つしか無いってことをな! さぁ、帰るぞ」
スタスタスタ......
そんな捨て台詞を残すと、記者達はギャラリー達から追い立てられるようにして修羅場から姿を消して行った。実際のところ、さすがに警察沙汰は不味いとでも思ったのだろう。
一方、
「琴音ちゃん......ごめんね。やっぱこんな所連れて来るんじゃ無かったわ。さぁ、あたし達も帰ろう」
今も尚、頭を抱えてブルブル震えてる琴音の身体を支え持ち、ギャラリー達をかき分けながら記者達に続き静かに図書館を去って行く2人だったのである。
その時、時刻はちょうど17時。
図書館の閉館と合わせて、そんな修羅場は否応なしに終焉を迎えることとなった。
実はこの時、翔子はこんな自問自答を繰り返してたりもする。
もしかして琴音ちゃんは......
記者が言ったような罪から現実逃避するために、自らその記憶を消し去ったのでは?
いや......
こんな素直で優しい娘が、そんな罪なんか犯す訳無いじゃん!
でも......
1つだけ分かったことが有る。それは、彼女が5年前に経験した事件が『御影村の大火災』だってこと。
でももう、このことについて今後自分の方から話を切り出すのは止めよう......
一瞬でも琴音を疑った自分が、嫌で堪らなくなる翔子だった。
ごめん、琴音ちゃん......
彼女の身体を支えながら、翔子は心の中で何度も頭を下げ続けるのだった。
やがて......
閉館となった図書館は明かりを落とし、それまでの修羅場が嘘のような静寂に包まれていった。
そんな図書館は今を持って今日と言う1日を終えた訳ではあるが、琴音に取っての長い長い夜は、今ようやく幕を上げたばかりだったりもする。
この後、彼女に更なる修羅場が待ち受けてることなど、この時点で誰が想像出来ただろうか?
しかし残念ながら、起きてしまうのである。この後琴音に取って、最も恐れていたことが......
※ ※ ※ ※ ※ ※
4月13日(日)
その日の21時。
図書館でそんな事件が起きてから4時間が経過したその頃。
雰囲気は打って変わって星空の下、純喫茶スイートピーへとchapterは進んでいく。
日曜日の夜ともなれば、明日のブルーマンデーに備えてか、客足が途絶えるのもやたらと早い。
店内はライトを少し落として節電対策。図らずも昼とは違うアダルトな雰囲気がその店には漂っていた。
「琴音ちゃん、今日はお休みなのによく来てくれたわね。あの人も琴音ちゃんが来るって知ってたら同窓会なんか行かなかったかも。ふふふ......あら、もう9時だわ。看板しまって来るわね」
「母さん、もうお腹いっぱい。これ以上食べれないよ!」
「分かったからちょっと静かにしてなさい。琴音ちゃんに迷惑掛けないのよ!」
「分かってるって!」
それは閉店間際における微笑ましい3人の会話。
1人は言うまでも無く隆美さん。ちなみに今日店長は、学生時代の仲間達と同窓会で19時には店を離れてる。きっともうこの後、店には戻って来ないのだろう。
そしてもう1人は初登場、店長と隆美さんの1人息子で名前を光太くんと言う。




