図書館
そして再び、ムシャ、ムシャ、ムシャ......
パフェへと神経を戻す琴音だった。
そんな琴音の好ましく無い返答に対し、もしや翔子はまたしても感情を剥き出してしまうのかと思いきや......結果は全く逆の反応を見せたのでした。
「琴音ちゃん......あなたはもう今年であたしと同じ22才よ。世間一般で言うところの『大人』だわ。
確かにあなたもあたしもハンディキャップを背負ってる。だからあなたのお母さんもあなたのことが心配でならないんでしょう。
でもそれに甘えてるうちは、いつまで経ってもあたし達みたいな病人は本当の意味での『大人』になれないと思うの。
少しづつでもいいから自分のことは自分で決めて行くようにしない?
あなただって本当は自分の過去のことを知りたいんでしょう? むしろ過去を知ることがあなたの未来を切り開くことに直結するような気がするのよ。
どう? 行ってみようよ。あたしはあなたの手助けがしたいの。だってあなたのことが好きなんだから。
あら、あたし何言ってんのかしら。ご、ごめんね。ありがた迷惑よね。ハッ、ハッ、ハッ、今の忘れて」
「行きま......しょう」
「へっ? 今何て言った?」
「あたし......図書館......行く。あたしも......翔子さん......好きだから」
「わ、分かった!」
正直、なぜこの時琴音が母の教えに背いてまで翔子の誘いに応じたのかは分からない。単に翔子のことが好きだったからなのか、他の理由が有ったのか......
ただ一つだけ言えること。それは間違いなく琴音が真の『大人』への第一歩を踏み出したいと願ってることだ。
仮に琴音が自分に起きた過去の事実を知ったとしよう。そのことが翔子の言ったように、未来を切り開くことに繋がるのかも知れないし、逆に未来への道を閉ざしてしまうのかも知れない。
いずれにせよ琴音は、今自分の判断で翔子と共に自身の過去を詮索する道を選んだ。
結果がどう出ようとも、誰のせいにも出来ない。なぜなら彼女はもう成熟した22才と言う年齢なのだから。
※ ※ ※ ※ ※ ※
そんなこんなで、時刻は16時30分。
その時2人が居た場所はと言えば、言うまでも無くそんな場所だったのである。
即行動......それに関しては、翔子の性分を是非見習いたいところではある。
『区民図書館』
気付けば2人は、主語禁止たるそんな場所でこんな会話を始めていた。もちろん小声で。
「あなたは火事で大事な人を失くしたのよね? ちなみに1年間に起きてる火災は3万件以上。それで死者数は千人以上。
その中からどうやってピンポイントに絞り出して行くかってことになるんだけど......何かヒントは無いの? 場所とか、どんな火事だったとか何でもいいんだけど」
翔子の目は、爛々と輝いている。きっと彼女の心は、琴音より先に5年前へとタイムトリップしてるのだろう。
「山奥の村......それと......大きな......火事」
「山奥の村? それと大きな火事? 確か5年前って言ってたわよね。そうすると、2018年ってことか......2018年? 2018年って......
えっ? ま、まさか......そ、そんな訳無いわよね?! 都市伝説じゃ有るまいし。ハッ、ハッ、ハッ、あたし何言ってるんだろう。あ、あら、ごめんなさい」
「御影村の......祟りって......女子高生が......そう言って......た」
「ちょっと何いきなり?! あたしも一瞬それ過ったんだけど、さすがにそれは違うでしょう? あれは田舎村の女子高生が放火したって都市伝説よ。琴音ちゃんが放火なんかする訳無いじゃん?!」




