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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第1章 向日葵のはじまり
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女神

【目次】

第1章 向日葵のはじまり

第2章 向日葵の決心

第3章 向日葵の秋祭り

第4章 琴音のはじまり

第5章 琴音の覚醒

第6章 琴音と御影村

第7章 向日葵のしあわせ

最終章 そして10年後



 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 10月1日 月曜日 15:30



「かっ、返せ!」


「やなこった、取れるもんなら取ってみろ。へへ~んだ!」


 正直言って僕は身体が小さい。それと気も小さい。



「くっそぉ!」


「おっと、やるのか?!」


 おまけに腕力が無いから、ケンカも弱い。



「えいっ! やぁ!」


「なんだそのへなちょこパンチは? 猫パンチか?」


 手が短いから、猫パンチすら届かない。


「たっ、頼むから返してくれ!」


「どうしても返して欲しいってかぁ? だったらこの橋から川に飛び込めや。ははぁ~んだ」


 それと僕は生まれつき水が怖くて泳げない。だから飛び込んだら、死んじゃうかも知れない。


「川に飛び込んだら......返してくれるんだな?」


「もちろんだ。おお、飛び込むか?」


 でも僕は飛び込むしか無かった。なぜかって言うと......


「それはな、姉ちゃんがくれた僕の宝物。だから絶対に返して貰わなきゃならないんだ!」


 つまり、そう言うこと。



 僕は橋の欄干らんかんに足を掛けた。水に浸かる前から身体がブルブル震えてるけど、怖いからじゃ無い。


 ちょっと、武者震いしてただけさ。別に強がって無いって! 


 下を見下ろしたけど、深いんだか浅いんだかも分かんない。深けりゃ深いで溺れるんだろうし、浅けりゃ浅いで足折りそう。頭から落ちたら即死だったりして。


 なんて悩んだところで始まらない。もう行くしか無かった。鳥になるしか無かった。


「ヒ~ハ~!」


 思いっ切り息を吸って、


「ムグッ」


 息を止めて、


 はい、3、2、1......


 そして最後に、


 「南無阿弥陀仏!」


 僕が人間を止めて、鳥に成り切ったその時のこと。



「ちょっと待った! あたしの可愛い弟に何してくれる?!」


「ねっ、姉ちゃん!」


 救いの女神が現れてくれたのさ。しかもこんな土壇場で。



「だっ、誰だオメーは?!」


 そんな百花繚乱の中に忽然と現れた千両役者は、僕の頼もしき姉。4つ年上の高校2年生だ。きっと学校帰りなんだと思う。セーラー服姿が夕陽でオレンジ色に輝いてる。


 もう完璧な女神じゃん!



「早く返しなさい。あたしが本気で怒るとちょっとヤバいよ!」


「そ、そんなに返して欲しけりゃな、こ、こいつの身代わりにお前が川に飛び込め。お、弟が可愛いんならそんくらい出来るだろ!」


 僕は姉ちゃんと一緒に暮らしてるから、姉ちゃんの性格はよく分かってる。そんなこと言ったら......


「ええ、あたしは賢也けんやが可愛いわ。だからそんなの容易いことよ」


 やっぱ思った通り。なんかもう橋の欄干に足を掛けてるし。下を覗いてるけど全然怯んで無い。多分もう心は鳥になってるんだろう。



「マ、マジで飛び込むつもりか?!」


「い、いくら何でもやらんだろ?!」


 いや、普通に飛び込むでしょう。



 さっきまで粋がってたガキ大将達も、ちょっと面食らった様子。


 年頃の乙女が、まさかセーラー服姿で川にダイブするとは思って無いってか? 下着が透けるだろうし、きっとすれ違う男は鼻血ブーだ。


 普通はそこまでバカじゃ無いと思ってるんだろうね。甘いな......



「それじゃあ賢也、行って来るね」


 ジャポ~ン! 


 何の躊躇も無く、ロープ無しバンジーをあっさりと敢行する僕の姉ちゃん。そこまでは、まぁ良かったんだけど......


「......」


「......」


「......」



「おい......何で浮いて来ないんだ?」


「なんか......ヤバい気がするんだけど」


「まさか......死んだとか?」


「しっ、死んだ? マジ?! ヤッ、ヤバい。逃げろ!」


 全然浮かび上がって来なかった。



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