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クリスティーネ先生

クリスティーネ先生、待望の特別読み切り掲載!

皆さまの応援のおかげで、クリスティーネ先生シリーズが書籍化することになりました!

「クリスティーネ先生の次回作にご期待ください!」のタイトルで、KADOKAWA様より3月28日に発売予定です!

詳しくは活動報告にUPしましたので、よろしければそちらをぜひご覧ください。表紙画像もUPしております!


これも皆様がブクマしてくださったり☆をつけてくださったおかげです。本当にありがとうございます!

お知らせとお礼も兼ねて、短編をUPいたします。お楽しみいただけたら嬉しいです。




 アンナさんの伝手で、私の書いた物語を出版していただくことが決まりました。


 レオナルド様にお送りした手紙を返していただいて、アンナさんとレオナルド様と三人で、どのお話を本にするか話し合って――結果として、探偵王子マックイーンを私のデビュー作にすることを決めました。


 最初の三話分を加筆修正して、出版に耐えられるかたちにまで持っていく。

 それが私のお仕事になりました。


 もうすでに一通り書いてあるのだからそんなに作業はないでしょうと思っていたのですが、読み返してみるとあれも直したい、ここも直したい、これだと前後のつながりに矛盾が、ああ、でもここを修正するとあとの辻褄が合わなくなってしまうから――と、結局大幅に手を入れなくてはならないことに気づいたのです。


 しかも書いているうちに「探偵王子が依頼人と話している場面に、こんな裏話があったら面白いのではないかしら!?」と、どんどん書きたいものが増えてきてしまいます。

 ど、どうせ後から書こうと思っていましたし、それならまとめて書いて手を加えたほうが、整合性もきちんとしたものが出来上がるはず……。


 つい夢中になって、レオナルド様へのお手紙の頻度が下がってしまっていました。

 レオナルド様はアイスクリームの一口目を床に落としてしまった時のような悲しそうな瞳をしながらも、「お前がやりたいことを大事にしろ」と言ってくださいました。

 彼も私の本が出来上がるのを楽しみにしていると言ってくださっています。


 アンナさんがすでに活字職人さんのスケジュールも押さえてくださっているとのことですし、ここはレオナルド様のお言葉に甘えて、可及的速やかに原稿を完成させなければ……!

 そう思って、出版原稿の作成に熱心に打ち込んでいた、のですが。


 レオナルド様がよくても、レオナルド様へのお手紙が減ったことを心配する人がいるのを、私はすっかり忘れていたのでした。


「あのぅ、レオナルド様」


 いつものように差し入れを持ってきてくださって、颯爽と帰ろうとするレオナルド様を、私は引き留めました。


 レオナルド様は不思議そうな顔をしましたが、サロンにご案内するうちに表情が明るくなっていきました。

 よかった、今日は特にお急ぎではないようです。


 騎士のお仕事でお忙しいと思って、普段は用事が済んだらすぐにお帰りいただけるように早めに切り上げるようにしています。

 私がお礼を言うとすぐに帰ってしまわれますから、本当にお忙しい時が多いのでしょう。

 騎士のお仕事、本の世界でしか知りませんけれど……物語の騎士様は命がけのお仕事が多いですから、きっと、大変なはず。


 そんなレオナルド様のお時間をいただくのはたいへん心苦しいのですが、こればっかりは私一人では解決できません。

 言いにくさに気まずい思いをしながら、口火を切りました。


「折り入ってお願いが」

「何だ」

「両親が、レオナルド様とお話しする場を設けてほしいと」


 私の言葉に、レオナルド様が目を見開きます。

 対する私は、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。


 私からレオナルド様へのお手紙が減って、もちろんレオナルド様からのお返事も減って。両親はそれを心配しました。

 私とレオナルド様の仲が上手くいっていないのではないか、何かご機嫌を損ねるようなことをしてしまったのか、と私に事情を尋ねてきたのです。


 両親の心配ももっともです。

 ですが、分厚い手紙を一方的に送り付けていたあの頃より、私とレオナルド様の関係性はむしろ良好――のはずなので、無用な心配でした。


 無用な心配、なのですが。

 私はその状況を両親に何と説明していいやら困り果ててしまい……とにかく大丈夫だからと繰り返した結果、「レオナルド様もそう仰るなら信じる」というところに落ち着いてしまったのです。


 お忙しいレオナルド様をこんなことに付き合わせてしまうのが申し訳ないと小さくなる私に――私も私で執筆で時間がないといえばそうなのですが――レオナルド様は、あっけらかんと言いました。


「そんなことか」

「え?」

「俺は構わない。いつにする?」

「よろしいのですか!?」

「当たり前だろう」


 レオナルド様は私を見て、本当に「当たり前だ」と言わんばかりに、堂々と頷きました。


「婚約者として当然のことだ」

「ありがとうございます!」


 感激して、思わずレオナルド様の手を握ります。

 予想では「何故俺がそんなことを」と渋ったりなさりながらも、結局はお優しいので協力してくださる、という想定でしたので、スムーズに話が運んで嬉しい限りです。


 レオナルド様、私が思うよりずっとお優しいお方です。

 いえ、突如物語を送り付けても許してくださるくらいですもの、お優しいに決まっていますわ。少し反省いたしました。


 レオナルド様は照れくさそうに顔を背けながら、「ああ」とか「うん」とかうぬうぬ言っていらっしゃいます。

 レオナルド様を過小評価していたことを反省したまま粛々と手を離し、脇に置いてあった紙の束を取り出しました。


「ではこちら、プロットです!」

「プロット!?」


 レオナルド様が大きな声で私の言葉を復唱しました。

 慌てて人差し指を口に当てて、声を潜めていただくように促します。


 お父様やお母様に聞こえてしまうのではとひやひやしました。

 プロットなんて物語を書いていなければ使うことがない言葉ですもの、慎重にしなくては。


 レオナルド様は私の意図に気づいてくださったようで、やや声を潜めて問いかけてきます。


「待て、クリスティーネ。何故プロットを? 物語の話か?」

「いえ、両親との会話のプロットです」

「??????」


 レオナルド様に紙の束を渡します。

 彼はまるで狐につままれたかのような顔で、ぺらりとページをめくりました。


「実は、私が物語を書いていることは何卒、両親にはご内密にお願いしたいのです」

「何?」

「その口裏合わせが必要かと思ってプロットを作ってみましたの」


 声を潜めて言った私に、レオナルドは顔どころか全身から「?」マークを迸らせておりました。

 レオナルド様はしばらく口を開け放した後で、はっと思い至ったように私に問いかけます。


「……お前の両親は、本が嫌いなのか?」

「いえ、父は歴史小説が好きですし、お母様もロマンス小説をよく読まれていて」


 レオナルド様から放出される「?」マークの量が増えました。

 ますます意味がわからない、と言いたげなお顔をなさっています。


 いえ、そうですね。

 両親が本が嫌いだから、物語を書いていることを内緒にしたい。それが理由であればわかりやすかったのですが。


「両親が読書好きだからこそ、絶対に秘密にしたいのです」

「何故だ」

「知られたら絶対に読みたいと言われてしまいますもの」


 私が小さくため息をつくと、レオナルド様が眉間に皺を寄せて、しばらく黙って何かを考えるそぶりをしてから……やはり首を捻りました。


「何がいけない」

「恥ずかしいのです」

「はず、かしい」


 私の言葉を反芻するレオナルド様。

 そうなのです。恥ずかしいのです。


 読書好きの両親ですから、私が物語を書いていると知ったならきっと読ませてほしいと言うでしょう。

 そして読んだらきっと、面白くても面白くなくても、感想を言おうとすることでしょう。

 それを想像しただけで、羞恥で倒れてしまいそうで身悶えしてしまいます。


「俺には手紙で送ってよこしただろう。何が違うんだ」

「あ、あの時は、顔も知らない方でしたから」

「知らない人間に読まれるのは恥ずかしくないのか」

「そうですね」

「??????」


 レオナルド様の眉間の皺がますます深くなりました。頭の傾きの角度も大きくなった気がします。

 こればっかりは気持ちの問題ですから、私もうまく説明できませんし……説明して分かっていただけるとも思っていません。


 両親は私が生まれた時から知っています。当たり前ですけど。

 どんな子どもで、どんなことが好きで、どんなことが嫌いで……どんな本を読んで、どんな経験をしたか。

 そのあたりをそっくりそのまま知っている両親に物語を読まれると言うのは、まるで物語を通して私の心の中を見透かされているようで。


 たとえば、この主人公のセリフ、昔あの子が言いたかったけど言えなかったことなのかしら、とか。

 ○○が好きだったからその影響を受けたのかしら、とか。

 こういう素敵な殿方が現れないかと待っているのね、とか。

 このキャラクター、昔お友達だった○○さんに似てるわね、とか。

 素人質問で恐縮ですがここは前述の世界設定と矛盾していませんか? とか。


 そういうのが一切合切、全部まとめて恥ずかしいのです。

 言い当てられても恥ずかしいですし、全然そんなことを意識していませんでしたと言う幼少期のことまでほじくり出されたりしたらもう、とんでもなく恥ずかしいのです。


 影響されていません。だって覚えてないんですもの。

 でも、いまだに誕生日ケーキの蝋燭を消そうとしたら前髪を焦がしてちりちりにしてしまったことを毎年のように話されるのです。

 こういうことが他にも山のようにあるのね、というのが火を見るよりも明らかでした。


 どんなお話を読んだとしても、きっとそういう話が出てくるに決まっています。

 だから絶対、内緒にしたいのです。


「私とレオナルド様はごく普通の文通をして、ごく普通に交流を深めていることにしていただきたいのです」

「ごく普通に」


 レオナルド様が私の言葉を反芻しました。


「ごく、普通に……????」


 レオナルド様が困惑しています。

 無理もありません。


 そうなのです。

 私たち二人とも、ごく普通の文通を知らないのです。


 最近送っているエッセイは割と普通のお手紙に近いかもしれませんけど、大半は物語とその感想です。

 物語のことを除いてしまえば、文通の内容を語ることは非常に難しくなります。

 そこで、プロットが必要になる。私はそう考えたのでした。


「レオナルド様が物語以外にはご興味がないのは承知しておりますが」

「待て」

「両親を心配させたくないのです」

「俺は」

「これも心置きなく物語を執筆するためですので、どうか」

「協力しよう」


 レオナルド様が力強く頷いてくれました。

 さすがはレオナルド様、頼りになります!


 乗り気になってくださったレオナルド様と二人してプロットを覗き込んで、説明を始めます。


「まずお互いどのような部分で気が合っているのかというのを話してお父様たちに安心していただこうかと」

「いい案だ」

「そこでお菓子を主軸に据えました」

「お、お菓子?」


 レオナルド様が素っ頓狂な声を出しました。

 そしてぱちぱちと目を瞬いて、私の顔を見つめます。何故その展開にしたのか、経緯説明を開始しました。


「レオナルド様はよく差し入れにお菓子を持ってきてくださるので、お好きなのだと思ってそこから着想を得たのですが」

「着想を得てしまったのか……」


 レオナルド様が頭を抱えました。


 あ、あら?

 てっきりレオナルド様もお菓子がお好きなのだと思っていたのですが……もしかして、違う?


「実は俺はさほど菓子に興味はない」

「えっ」

「お前が喜ぶから買ってきているだけだ」

「そ、そうなんですね!?」


 まったく知りませんでした。

 そう言えばお茶を一緒にいただくときにも、あまりお菓子を召し上がっていなかったように思います。

 お忙しいからゆっくり食べている時間がないのだと思っていましたが……そういう理由もあったのでしょうか。


 ……あら?

 それでは、お忙しいと思って差し入れにきたレオナルド様を速攻でお帰ししていたの……もしかして、ものすごく失礼だったのでは……。


「俺は菓子の話をされても答えられない。無理があるのではないか」

「そうですね……では第二案で参りましょうか。次のページをご覧ください」


 プロットをめくります。

 こんなこともあろうかといくつか案を考えてあったのです。


「レオナルド様はおじい様の代から『ゴードン家の娘と結婚しないと災いが降りかかる』と言われて育ったのですが」

「待て待て待て」


 レオナルド様からストップがかかりました。

 何でしょう、まだ序盤も序盤なのですけれど。


「災い? 何だそれは?」

「私、考えたんですけれど。私の家とレオナルド様の家では家格が釣り合いません。いくら祖父同士の約束とは言え、書面を取り交わしたものでもなかったですし……断ることは出来たはず」

「それは、……そうだな」


 レオナルド様が初めて気が付いたというように、はっと息を飲みました。

 そのご様子だとあまり約束を反故にするという考えには思い当たらなかったようですけども。


 レオナルド様に向き合って、ぴんと人差し指を立てて見せます。


「なのに婚約したままでいるというのは、いささかリアリティに欠けると思いまして」

「リアリティ」

「理由づけが必要だと思いましたの」

「それで災いか」


 神妙な面持ちで頷くレオナルド様。

 ご納得いただけたようで何よりです。プロットに沿って説明を再開します。


「レオナルド様のお家は代々祓魔の任を陰ながら負っていて」

「祓魔の任を……!?」

「騎士の家系と伺っていますので、そういうお家があっても不思議はないのではと」

「な、なるほど……?」


 騎士というところから膨らませてみたのですが、このあたりは是非とも、本物の騎士であるところのレオナルド様のご意見を伺いたいと思っていた部分でした。

 レオナルド様は最初は驚いた顔をしていましたが、プロットに目を通しながら「ふむ」と顎に手を当てて何度も頷きました。


「俺も騎士として働いて何年か経つが……表に出ない暗部があるとか、戦争時代の幽霊話とか。俄かには信じがたいような噂話には事欠かない。祓魔、というのは聞いたことがないが……昔、騎士が『魔物』と言われるものの討伐に駆り出された、という伝説のような話なら、確か誰かが……」

「まぁ! 火のないところに煙は立ちませんもの! きっといくつかは本当だったり、元になった逸話があったりするはずですわ!」


 ぽんと手を打ちます。

 やっぱり、思った通りです。


 騎士団の歴史は長いですし、お伽話でも騎士様はたくさん登場します。

 一騎当千の騎士が国を救ったり、ドラゴンからお姫様を助けたり。本当かどうかはさておいて、そういう「ロマン」のあるご職業であることは間違いありません。


「代々騎士としてのお勤めを果たしながら、裏では人知れず魔物とも戦う家系……そして、我が家はその因縁の相手」

「祓魔の騎士の敵……魔物使い、ということか?」

「いえ、同じ祓魔の任を負う宿敵、というのはどうかしら、と思いまして」

「なるほど。そうなると祖父同士がライバルということか」

「それ、いいですわね! 祖父時代の過去編を挟むのも面白そうです!」


 興味深いお話にいても立ってもいられなくなって、部屋からインクとペンを持ってきました。

 二人でプロットを囲みながら、あれこれアイデアを出し合って改良していきます。


「災いが降りかかる、というのは私のおじい様がレオナルド様のおじい様にそういう呪いをかけた……ということになっていますが、本当は違うのです」

「何?」

「強い力を持った魔物に身体を乗っとられかけた私のおじい様が死の間際、世界に希望を残すため、命を賭して魔物の呪詛の形を歪めたのです! それはつまり、私とレオナルド様が結婚すれば……」

「世界に災いが降りかかることはない?」

「その通りです!」


 私が肯定すると、レオナルド様が「おお!」と表情を明るくしました。


 いつもは一人で考えていますけれど、レオナルド様のお手紙で「こういうエピソードを書いたらもっと楽しんでいただけるかしら?」と思いつくこともあります。

 アンナさんのリクエストで物語を書く時も同じで、思いもよらない視点があると知れることはとても刺激になります。


 こうしてお会いしてお話しながらアイデアを出し合えるのも、新鮮でとても面白いです。

 レオナルド様が喜んでくださっているということは、きっとこれは楽しいお話になりますね!


「呪詛か。騎士団では呪われた馬具の話を聞くな」

「まぁ! そんなものが!?」

「いや、単にその馬具を使ったものが次々に怪我をするから、使われなくなったと言うだけのものだが。前々から何故捨ててしまわないのか不思議だったんだ」

「そ、その話、詳しく聞かせてください!」


 レオナルド様からいろいろと騎士団に伝わる逸話を教えていただいて、ノートにたっぷりどっさりメモを取りました。


 ノートを胸に抱いて、満足感でいっぱいでした。ふうと息をつき、ソファの背もたれに体を預けます。

 ああ、もう早くお話を書きたい、完成させたい。そんな気持ちがどんどんとあふれてきていました。


「ネタ出しにご協力ありがとうございます!」

「かまわない。これでお前が面白い物語を書けるなら……」


 レオナルド様が照れくさそうにそっぽを向きました。

 しばらく二人の間に沈黙が満ちて、そして。


「…………っは!?」


 と、顔を見合わせました。


「違う、物語を書こうとしているわけではないぞクリスティーネ!」

「そ、そうでしたわ! 私ったらすっかりいつもの癖で……」

「……何やってんの?」


 二人して慌てているところに、ノックとともにアンナさんが現れました。


 ◇ ◇ ◇


 迎えた、お父様とお母様と、レオナルド様の対面の日。

 サロンにお通ししたレオナルド様のお隣に座って、私は緊張でごくりと生唾を飲み込みました。


 あの後アンナさんに相談して、どうしたらいいかを一緒に考えてもらったのです。

 でも、私にはそれが成功するかどうか……実はあまり、自信がありません。


 いえ、でもあのしっかり者――本人は「ちゃっかり者」と言っていましたが――のアンナさんの作戦ですもの、きっと大丈夫です。

 そう唇を噛み締めて、両親と対峙していました。


 挨拶もそこそこに、お母様が興味津々といった様子で、私たちに問いかけます。


「いつもお手紙ではどんなお話を?」

「いやだわ、お母様ったら……」


 私はそう言いながら、俯きます。

 そしてアンナさんのご指導のとおり、「両親に自分の書いた物語を目の前で音読される」様子を思い浮かべました。


「恥ずかしいです」


 恥ずかしいです。

 言葉の通りものすごく、今すぐ脱兎のごとく逃げ出してしまいたいくらいに恥ずかしいです。

 そんなことをされるくらいなら、前髪をちりちりにした話をされるほうがずっとずっとマシです。


 両親が黙ったのを確認して、作戦その二に移ります。

 隣に座っているレオナルド様の手に、そっと自分のそれを重ねました。


「…………」


 ちらりと窺うと、レオナルド様の顔がみるみるうちに真っ赤になっていきます。

 アンナさんが「レオナルド様は練習の必要ないよ」と言っていた意味がよく分かりました。


 レオナルド様、本当に照れ屋というか……恥ずかしがり屋さんというか。

 文机に座るのが女々しい、とおっしゃるくらいですもの。それよりもっと女々しいかもしれないこの行為が、きっと恥ずかしくて仕方ないのでしょう。


「まぁ! まぁまぁまぁ!!」


 お母様が喜色満面と言った声を上げました。

 こういうときの反応が私と似ていて――遺伝の力を感じます。

 そして隣に座っているお父様の腕を取って「貴方、見ました!?」と鼻息を荒くしています。お父様は頭を抱えて「うむ……」と唸っていました。


 お父様の反応がイマイチなのを見てか、お母様はレオナルド様に向かって身を乗り出し、頭を下げました。


「レオナルド様! 少しぼんやりしたところのある娘ですけど、何卒よろしくお願いします!」

「え」


 レオナルド様が目をぱちぱち瞬いています。

 何故そんな話になるのかと言いたげなレオナルド様を置いてけぼりにして、今度はお父様が俯いたままでぼそぼそと言いました。


「私からも……レオナルド殿。娘をよろしく頼む……グスッ」

「あ、ああ……」


 お父様、泣いていました。

 レオナルド様の表情を窺うと、レオナルド様も私を見て、同じようにばつの悪そうな顔をなさっていました。


 おそらく作戦は成功ですが……何でしょう。何となく、とっても、良心が咎める気がいたします。


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― 新着の感想 ―
レオナルドの最初のいけ好かないイメージがどんどん崩れて…w
久しぶりのクリスティーネ先生もすごく面白かったです。もっと読みたい。
今回も安定のすれ違いで笑いました。かわいいので一生やっててほしい……(笑) 書籍化おめでとうございます!このシリーズ大好きなのでうれしいです!
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