3. 疑惑の王子
「そこで僕は後継者争いから辞退して婚約者を守るために君を利用して悪評を広めようとしているわけさ。一晩泊めてくれないか?」
「はぁ!?」
男女が雨戸も閉めて一晩同じ屋根の下で過ごす…これは確かに浮気者のレッテルを貼るにはちょうどいいがリュミエールは冗談ではない。リュミエールが結婚しようとした時に不利になるではないか。
「…最低な王子ですね。」
「君にはすまない事を言っていると思っているよ。でもちゃんと策は用意している。君は記者に気付かれないように裏口からそっと逃げて王子が討伐で疲れて寝ている時に逃げてきたと伝えるんだ。僕は自分の国で悪評が広まれば良いだけだからホテルの名簿に名前を書いておけば証拠として残るだろう。」
「そんな事をしたら女性を襲おうとしたとピエドラの者から嫌われるのでは?」
「嫌われたら討伐に行かされなくて済むかもしれないし、嫌われれば嫌われるほど後継者争いにちょうどいいさ。」
そう言うと王子は壁に椅子を移動させてもたれかかった。
「まぁ僕はここで寝かせて貰うから、早く行きなよ。」
「ベッドで寝たらどうだ?…ですか?」
「女性のベッドを借りて寝るなんてとんでもないことだからね。」
「意外と…紳士なんですね。」
「僕は一途なものでね。あと一つお願いしたい事があって…」
〜〜〜〜
こうして思い通り悪評が広まったわけである。
「リュミエール様が妊娠されたと言う話が出たらその時は許しませんわよ。」
「勿論さ。」
そうしてニッコリ笑う顔はやはりかっこいい…が胡散臭い。かっこいいからこそ胡散臭いのかもしれない。信用できないとビオラはじっとライト王子の顔を見た。
「さぁ、折角来たんだしお茶にしないかい?暑いピエドラではポピュラーなマンゴーというフルーツを持ち帰って作ったデザートがあるんだ。」
「そんなよくわからないもの、いりませんわ!」
「では仕方ない私だけで食べるとしよう。持ってきてくれ。」
こうして持って来られたものは黄色が鮮やかで美しいデザート。プリンの上にクリームがトッピングされマンゴーとスライスアーモンドが美しく飾られてチョコソースがトッピングされている。
「わぁ、美味しそうですわ!」
「じゃあ一緒に庭園へ向かうことにしよう。」
こうしてまたまんまとビオラ嬢は怒りを忘れてデザートを食べた。なんだかんだ王室のデザートが食べられるなんて贅沢を逃せるわけがないのだ。
「このフルーツはなんて名前でしたっけ?」
「マンゴーと言う名前だよ。」
「マンゴー…美味しいですわね…私もピエドラに行きたくなってしまいますわ。魔物さえいなければなぁ…。」
「前回討伐したから今は安全さっ。一緒に行こう。」
「嫌ですわ。リュミエール様に会いに行くんでしょう?はぁー、ヒンミルドの何処かで売ってないかしら…。」
そう言って切なくマンゴー見る姿に見て持って帰って良かったと思いつつ後で庭師にマンゴーが育てられないか聞いておこうと王子は思った。
〜〜〜〜
こうして家から帰ったビオラ嬢はしばらく食べたマンゴーに想いを馳せていたが、段々と誤魔化されたリュミエールの事を思い出してきた。
(ライト王子…今までは街にいる女性に声をかけたり手紙を送ったりするだけだったのに一晩を共にするなんて一線を越えすぎじゃないかしら。)
絶対にそんなふしだらな男ではないと思っていままで許してきたけどこれはあんまりだと思わず涙が溢れる。
(確かに昔からイケメンで顔も育ちも良くて、誰にでも優しくて、甘い言葉も言ってくれて、プレゼントも贈ってくれて、女性に対する扱いが上手くて…はぁ、浮気をする人の特徴NO1じゃないかしら。)
あんな男とは別れた方が良いのだろうか…そんな考えが頭を過ぎったが、外でピクニックをしたり、新しいカフェができたらそこに連れて行ってくれたりと思い返すほどに楽しい思い出しかなかった。
そして、何より長年悩まされてきた父からの虐待を受けていた私を救ってくれたのが王子だった。
あれは今から5年前の14歳の頃の事だ。