2. 浮気者の王子
ビオラの杞憂は1週間で終わりを告げた。そして、無傷で帰ってきてヘラヘラ笑っているライト王子を目の前にして怒りが湧いている。
「ビオラ嬢、会えて本当に嬉しいよ!」
「この噂はどういう事ですの?」
ライト王子様が帰る2日前、記者が配っていた記事を貰うと衝撃的な事が書かれていた。
『ライト王子、遠征先ピエドラで女騎士リュミエールを誘惑し同じ家で一夜を過ごす。』
この記事を王子に突きつけると王子は目を輝かせた。
「おお、このリュミエール嬢は魔物討伐の際に最前線で戦った仲間だ。」
「えっ!?王子様は最前線で戦ったのですか!?」
「ビオラ嬢、僕は美しいだけでなく強さも持ち合わせているんだよ。」
「…本当ですか?」
「ビオラ嬢が見たいと言うなら…」
「きゃー!きゃー!!脱がないで下さいませ!」
「そうかい?ビオラ嬢に見せる為に鍛えた体なのに残念だな…」
「破廉恥ですわ!」
目を閉じて恥ずかしがっていたビオラだったがうっかり遠征先での浮気の事を忘れていた事を思いだして振り返った。
「このリュミエール様とはどうして一夜を過ごしたんですの!?」
「一緒に過ごしていたら記者が来たから出るのはまずいと思ったんだ。まさか入る前から見ていたとは思わなくてね。」
「ふんっ!」
嘘ばっかり、ビオラはそう思っていたが確かにそれは嘘であった。
〜〜〜〜
ライト王子はピエドラでいつものヘラヘラした調子で鎧を被ったリュミエールを誘惑していた。
「そこのお嬢さん、華奢なのに最前線で戦われるのですか?」
「見くびられたら困るね。こう見えても男すら打ち負かすとピエドラでは有名さ。」
「そうなのですね、それは大変心強い。じゃあ力比べということで私と腕相撲で勝負しませんか?」
「良いね、私に負けたら足手まといだから最前線から外れてもらうよ。」
こうして意気揚々と始めた腕相撲だったがリュミエールはあっさりと負けてしまった。
「くそっ…負け知らずだったのにこんなひょろひょろな男に負けるなんてよ。」
「酷いですね、鎧の下はムキムキなんですよ。」
「はぁ〜、まあわかったよ。王室が応援で連れてきただけあるな。私は約束通り最前線から外れるよ。」
「いえ、あなたはとても強いので最前線から外れてもらっては困ります。」
「負かした相手によく言うぜ。」
「私はそれより鎧を外したあなたの素顔と名前が知りたいです。」
こうして鎧を外したリュミエールに口説いて口説いて口説いた後、討伐での戦いでかっこいいところも見せ、まんまと家に入れてもらったのだ。
リュミエールは家につくと、ドキドキしながらちらっとライト王子を見た。ライト王子はリュミエールをみてニッコリ笑った。
「雨戸を閉めようか。」
その一言でリュミエールの頬はカッと赤くなった。黙って頷くとリュミエールは雨戸をそっと閉めた。
そしてリュミエールが椅子に座るとその隣に王子は腰掛けた。ギシッと軋む音さえリュミエールにはドキドキだったのに更に顔を近づけてきた。
「外に記者が来ている、小声で話そう」
「う、うん…何で記者がいるんだ?」
「実は僕、ヒンミルド国の王子なんだ」
「えっ…「静かに」
口を覆われたリュミエールは今までの言葉遣いや馴れ馴れしい自分の物言いを思いだして冷や汗を垂らした。そして唇に触れている手が熱くて男らしく色んな意味でドキドキした。手が離れた時には恋しさが募った。
「最前線で戦う君は本当に強くてかっこよかったよ。」
「ライト…じゃない、王子様もとてもかっこよかった……です。どうして王子なのに最前線で戦う必要が…?」
「僕には優しい兄がいるんだけど病弱で後継者には僕が良いだろうって話が出てるんだ。」
「はぁ…」
リュミエールには後継者とかそういう話は身近では無かった為、思わず頭を掻いた。
「僕は周りに後継者には向いていないと思わせるために色々しているんだけど中々上手く行かなくてね。兄の母親に目をつけられてしまっているのさ。」
「だから危ない目に合わせて殺そうとしているって事か。」
「まぁ、そういう事だよ。」
いつもと違う憂いを帯びた横顔やロウソクで照らされたロマンチックな雰囲気にリュミエールは思わずドキドキしてしまう。
「実は僕には大切な人がいるんだ。」
「え…大切な人?」
「あぁ僕より2歳下の女性でその女性とは婚約している。しかし、僕はこうして殺されそうになっている身。いつ彼女に被害が飛び火するかもわからない。」
婚約者だったと聞いてリュミエールはがっかりしたが王子だから身分も釣り合わないし、どちらにせよ諦めるしか無かった恋であった。
ライト王子の真剣な表情にリュミエールは合わせた。