1. 悩み多き婚約者
私はこの国のお姫様!になる予定のビオラ。王子様とラブラブで幸せです♡と言いたい所なんだけど…
「愛しのシエル嬢…あなたの瞳はトパーズのように美しい。お時間あるなら一緒にお茶でもしませんか?」
「ふん、あなたの女癖の悪さは城下町中に知れ渡っていますよ。私の弟を使ってプレゼントまで送ってくるのはやめて貰えませんか?」
「ふふっ、小柄でも芯のある強気なあなたも好きですよ、レディー。」
パァンッ
こうやって女性を追い回しているうちに悪評の広まった第二王子様なのです。こうして頬を叩かれたライト王子の背後から私が歩いて行くと、ヘラヘラした笑顔で振り返った。
「愛しのレディー!!」
と言ったあと笑顔のまま少し固まった。おおよそヒールの音で女性だと判断したけど私でびっくりしたのだろう。
「ビオラ嬢!あなたをお待ちしていたのですよ。」
「あなたはいくつもの愛を求めているのね。」
「ビオラ嬢、僕にとっては君が一番大切さ。信じてくれないか。この僕の美しさに免じて!」
「…ふんっ。」
確かに彼はかっこいい。だけどそれがまた一層腹立たしい。そしてナルシストだ。
ぷっくりと膨れてそっぽを向いた愛らしく拗ねるビオラを見てライト王子は微笑んだ。
「そんな可愛らしい顔をして、僕を喜ばせたいのですか?」
「怒っているのです。」
「おやおや、それは困りましたね。誤解を解きたいのでゆったりお城の庭でティータイムにしましょう。」
「気分じゃありませんわ!」
「それは残念だ。今日はビオラ嬢の好きな洋梨のカスタードパイを用意させているのになぁ…」
「えっ、洋梨のカスタードパイ!行きますわ!」
ビオラはカスタード系のデザートが大好きでそれだけで気分も晴れてしまうのです。先程まであんなに怒っていたのにルンルンで王子の手を取りお城へと向かって行きました。
「早く行きますわよ〜!」
「ふふっ、今行きますよレディー。」
お城に着くと中庭にデザートが用意されており梨とカスタードの香りがふわりと広がり、テーブルの上には洋梨のカスタードパイと味をアレンジするためのメイプルソース、チョコレートソースの小瓶が並べられ、アッサムミルクティーが添えられている。
「うわぁ〜!素敵ですわ!」
「気に入って貰えて何よりだよ。」
「ここのお城ではカスタードのデザートが出される事が多いのですね。幸せですわ〜!」
「うん、僕が好きだから良くリクエストするのさ。あと…ビオラ嬢のためにね。」
ライト王子はビオラにウインクをした。
「ふふふ、もうライト王子様ったら、みんなに言ってるくせに!」
「ははは…」
そう言いながらもビオラはカスタードのデザートがあるから上機嫌だ。
そんなビオラを王子は優しく見守りながら話し始めた。
「実はビオラ嬢には伝えておかなくてはならない事があるんだ。」
「なんでしょう?」
「僕はしばらくピエドラに魔物の調査に向かうよ。」
「えっ…!?何故それをライト王子様が?」
「僕の美しさに嫉妬した兄上の母が嫌がらせをしているのさ。」
やれやれと冗談めかして話すライト王子だが、ビオラ嬢は気が気では無かった。
何故ならピエドラは魔物が最も活発化している地域で大変危険な地とされているからだ。
「そんな…!こんな女を追いかけ回しているだけのライト王子様にそんな事できるわけありませんわ!大怪我では済まないかもしれませんわよ。」
「ビオラ嬢…中々酷いことを言うね。」
「本当の事じゃありませんか。」
そう言いながら大好きなデザートを途中でやめてテーブルを離れてライト王子様の元へ向かった。そして頬にそっと手で触れた。
「もっと顔が愚かになればいいのに…」
「ふふ、この顔は嫌いかい?」
「いえ、大好きですわ」
そう言われて赤くなるライト王子にビオラも釣られて赤くなりそっと手を離そうとすると王子はその手を掴んでそっと手首にキスをした。
「は、破廉恥ですわ!」
そう言って慌てて手を引き抜くビオラに王子はヘラヘラした笑顔で言った。
「結婚したらもっと破廉恥な事をするんだよ。」
「もうっ!やめてくださいませ!」
「手首なんて挨拶程度じゃないか。君が食べられちゃう前にデザートを食べたらどうだい?」
「あっ!そうでしたわ!折角の洋梨のカスタードパイ!!」
「紅茶は温め直すかい?」
「いいえ、冷めたのも好きだから良いですわ。」
そう言いながらやっぱり王子が心配なビオラは考え込みながら黙々と食べ、一緒にライト王子も食べ始めた。無事でありますようにとビオラは願わずにはいられなかった。